村の職人さんたち
珠子さんに言われたから・・・・手押し車の車軸の部品を急いで作りました。珠子さんが午後からバイトというので、今日は朝から犬人村へ。なりゆきで、(昨晩は陽子さんと飲んでた?)み~ちゃんが同行。
洞窟を通って、少し歩いて村へ。山の獣がいないか、珠子さんが警戒してくれてます。珠子さんは、鼠や兎など小型の獣で半径300mぐらい、猪サイズなら半径1kmぐらいの気配察知がてきるそうですから、よほど出会い頭でなければ大丈夫でしょう。珠子さんは近接戦闘が得意ですが、み~ちゃんには攻撃技とかあるのかしら。
で、黒犬村。車軸の部品を届けに鍛冶屋さんの所へ行ったらお留守で、木工職人さんの所へ行くと猫人の職人さんも来てて、4人で作りかけの一輪車を囲んでいました。検討会のテーマは、限られた材料と時間で各村に配れる台数を作る方法。面白そうなので僕もその仲間に入れてもらいました。僕が作って来た部品も出しました。
らいむちゃんは、村でも作れそうだと考えて木製の一輪車を持ち込みました。それでもこれは現代日本で入手しやすい既製品を利用して作った物。そのまま再現するのは難しく、機能的にムダな部分もあります。車軸は太いボルトナットを使ってます。軸受けは山形鋼を木ネジ止めです。ネジは機械加工でなければたいへん難しいです。軸を抜けないようにするには他にも方法があります。
村の試作1台目は見本をほぼそのまま再現した物。リバースエンジニアリングです。木工部分は、板の材や取りが違うぐらいで、ほぼ同じです。軸受けは鉄板を木材の側面に釘付けしてます。若干耐久性に劣っても鉄を大幅に節約できます。車軸は鉄の打ち物で、抜け止めは段を付けて打ち込みになってます。似た形を再現してますが、製造にも手間がかかり、保守性が劣ります。
2台目と3台目は、模倣から抜け出して自分たちに合った物にして、さらに新しい価値を盛り込もうとしてます。2台目は木の組み方を変えて、手作業で作りやすくしたもの。3台目は若干強度は落ちるけど、用途によって派生形が作れるというアイディア物。木工職人さんの工夫が見られます。
僕が作った部品は、工作機を使えば短期間に量産できるという構造。車軸は鉄筋を切って、端に穴を開けて抜け止めピンを差す。軸受けは鋼板2枚で木材を挟み込む。鉄の丸棒に細穴を開けたり、鉄板に位置精度良く小穴を開けるのはボール盤がないと無理です。
車軸の部品は僕の方である程度は作る覚悟だったのですが、犬人と猫人たちは自分たちでなんとか出来る方法を考えようとしてました。犬人たちは、僕たちになるべく負担をかけないように気遣ってくれています。猫人たちは、これを機会に新しい技術を自分の物にするのが目標だと言います。
犬人の木工職人さんは、3台目の構造から派生して、短期間に量産できるアイディアがあると言いだしました。車輪は既成の荷車用を使う。車体は梯子とほぼ同じで、荷台の部分は歪んだ形の箱にすぎない。隣国は木工が盛んで、短期間に量産できる工房がいくつもあるそうです。もし猫人の商人が隣国の工房と交渉できるなら、3つの部分をそれぞれが得意な工房に発注して輸入し、組み立ては村でおこなう。これなら、冬の間に数百台が作れるのではないかと。作ったうちのいくつかを他の地域に売れば製造費用を補えます。それにも猫人の商人の力が要ります。
猫人の木工職人さんは、これを実行するには先にクリアする事があると言いました。僕は費用の問題だと思ったのですが、彼が気にしたのは一輪車の考案者のことでした。模倣から始まった物で商売をして良いのだろうかと。僕は、これの基本構造は向こうの世界では一般的で、今作ろうとしている車は彼らが発展させた独創的な物だと思うと言いました。
猫人の鍛冶職人によると、隣国は鉄製品の加工でも儲けるため、素材の鉄の塊や板は高い輸出税がかかるかわり、加工品は無税だそうです。鉄製品の工房もたくさんあるはずなので、車軸まわりの部品もあちらで作って木製品に組付けるのはどうだろうかと。知恵を集めるとアイディアが出てきます。木工職人さんは、猫人の商人に相談すると、出て行きました。
僕はそのまま鍛冶職人さんたちと技術交換。林業の関係らしいですが、犬人の鍛冶屋さんは鋸や鉈など鋼の打ち物が得意だそうです。猫人の鍛冶屋さんは鍋や家庭用の鉄器を鋳物で作るのが専門だそうです。話をしているうちに彼らが目を付けたのは、壁に立てかけてあった投げ槍。槍の穂先は僕が廃車の板バネから作った物です。
犬人からは、素材の鋼板について訊かれました。彼はそれが大きく均一な厚さの鋼から切り出された物とすぐに見抜き、元の大きさを訊いてきました。これで鋸や鎌を作りたいらしいです。硬すぎず弾性のある鋼材が欲しかったそうです。少し曲がっていても、そのぐらいは修正できるそうです。
猫人は槍の穂先を鋳物で作ることを考えていました。投げつけて傷を負わせるなら、多少脆くて鋭さに欠けても支障無いはず。鋳物なら柄を簡単に付けられるように作れると。彼は「鋳つぶして材料になる鉄屑のような物があれば分けて欲しい」と言いました。例の自動車屋さんで分けてもらえると思うので、数日後に洞窟に届けると言いました。彼らは値段を気にしていましたが、どちらも、現代の日本ではキロなんぼの値段です。それでも、何か対価になる物を渡したいと言ってくれました。問題は、現代の日本で、出所を伏せて換金できる物って限られていることですね。
技術屋の交流会の間、英語が頼りない僕のために珠子さんが横にいてくれしまた。その間、み~ちゃんは村の娘さんたちに捕まっていたようです。
み~ちゃんが女の子たちにあげたガラスビーズがたいへんな事になっていたみいたです。子どもたちが本の絵を見ながら作ったアクセサリーから火がついて、あれこれ工夫した飾り物が作られていたそうです。レース編みが得意な娘さんの考案で、ビーズを編み込んだ胸元飾りができていて、これを売ってそのお金でもっとビーズを買って欲しいって。僕が見てもすごく綺麗な物です。み~ちゃんがビーズ持って来たのって井戸掘りの時だから、1か月もかからないでこれを作ったなんてすごいです。ビースのセットに付いていた細い銅の線がもっとたくさんあれば、ティアラのような物を作れるって子もいたそうです。この村の女性陣はすごいです。
帰り際に見たら、井戸に屋根が付いていて、その横に屋根付きのテーブルができていしまた。雑談してる娘さんたちは針金でできた篭を持っていました。以前にらいむちゃんが持って来た針金だそうですが、柵の補修なんかに使ったらもったいないと、大工さんが細工師さんに全部渡したそうです。男衆もいい仕事してますね。




