秋の観光旅行?
「秋は観光の時期だねえ。」って、突然言い出した陽子さん。
「秋って、やっばり食欲の秋よねぇ」と言うのは珠子さん。そのままグルメツアーになりそうでしたが、「わたしは、京都に行きたい」と、陽子さんはきっぱり言い切りました。どうやら、稲荷の大神さまのところへ挨拶に行きたいようです。
「んじゃ、途中で東京に寄ってよ。昔に居着いた店の娘の子孫がいるらしいんだよ。遠くからでも、顔見たいから。」 戦争や高度成長などですっかり変わった東京の街も見てみたいそうです。
でもそうなると、ちびたちはどうしようか。僕の軽ワゴンでは全員は乗れません。ちびたちはまだ長時間の電車は無理でしょう。結局、京都旅行の間はスナおばちゃんの所で預かってもらうことにしました。そのかわり、今度の日曜は3匹連れて隣の市の遊園地へ行くことにしました。「あ、自動車、もう一人乗れるよね。」って、珠子さんも遊園地で遊びたいそうです。
彼女たちの実態は猫と鼬です。僕はすぐにダウンしましたが、ぐるぐる回転系とかコースター系とか全然オッケーでした。ちびたちは身長制限にひっかかった物以外は全部乗りました。予想外に楽しんだのはスポーツ体験コーナー。珠子さんはあの壁を登るやつを何度もやってました。横で登ってるマッチョ男に圧勝してガッツポーズして。ちびたちはトランポリンが気に入ったようです。少し教わると、すぐに跳ねながら伸びたり縮んだり縦に横にとくるくる回ってました。テレビの体操競技を見て練習していたそうですが、あれは月面宙返りって技のはず。普通は自己流でできるものじゃないですよね。インストラクターのおねえさんが驚いていました。帰路の車内ではみんな安らかに爆睡。僕はただ運転に集中してました。
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軽ワゴンで高速道路を往復とも夜行というのは無謀でしょう。考えた行程は、朝方出発で京都へ向かい、京都泊。朝のうちに稲荷神さんに御挨拶にうかがって、そのあと、従姉妹の白狐がいるという岐阜の神社へ寄って、名古屋へ。また朝から走って、東京をひとまわり見てから、夜には帰宅できる・・・・のかなあ。陽子さんに、生まれ故郷には行かなくていいのかと訊いたんですが、江戸時代の前頃に村は無くなってしまったそうです。
やはり電車にした方が良かったかもしれません。だいぶくたびれた僕の軽ワゴン。やはり高速の流れに乗れません。バスとかの後ろについて気流で引っ張ってもらいますが、坂道では置いていかれます。珠子さんは、最初は「おっそ~っ」とか言ってましたが、周囲の風景とスマホの地図を見比べながら「ゆっくりだと景色が楽しめるね。」って言ってくれてます。クッションの良くない椅子に座り続けなので、1時間ごとぐらいにサービスに入りますが、そのたびに陽子さんが名物を食べたがるので、けっこう出費。これなら飛行機の方が安かったかも。難行苦行の末、明るいうちに京都着。市内の名所をあちこち回って、ネットで予約した安いビジネスホテルへ。シングル1室とツイン1室。陽子さんは、せっかくだから温泉旅館が・・・と言ってましたが、それは財政が危ないです。珠子さんは、3人でラブホなら安いよって。そっちは僕の貞操が危なすぎです。
翌日、陽子さんはひとりで稲荷神様のところへ。その間、僕たちは普通の観光客になってました。で、陽子さんが言ってた従姉妹の狐さんは、しばらく前に岡山へ栄転したと。岡山って、向こう側ですよね。で、ナビに従って中国道を走りましたが、この道はアップダウン続きでした。
白狐さんは陽子さんと同い歳で一緒に神の社にあがった仲だそうで、東国に行って音信不通になった陽子さんを心配していたそうです。綺麗な巫女姿で僕にも挨拶してくれました。
岡山で折り返して、あとはがんばってがんばってがんばって名古屋へ。途中でメーター横の赤ランプが点いて焦りましたが、休み休みなんとか宿に辿り着きました。
3日目は朝早く出発して東京へ。やはり珠子さんの知っている建物はほとんど無いらしいです。それでも見覚えのある蔵がひとつ残っていると驚いていました。友達が嫁いだという店は綺麗なビルになっていました。店の中で接客している女性の顔を見て、「きっとあの子のひ孫だね」って。中へ入って会ったらきっと泣いてしまうからって、外からしばらく見ていました。店の奥には三毛猫の招き猫がありました。人よりもずっと長く生きる妖であれば、いろいろ悲しい思いもしなきゃならないようです。
で、「今度はパパっと豪華温泉旅にしたいねえ。」っていうのが陽子さんの感想です。




