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あやしいものたち

 箱を包んでいるボロ布は凝った模様織のようでした。ちょっと重いけれど、入っているのは硯石かお宝か。そろそろ陽が落ちて暗くなって来たので、電気の点く離れの部家へ持って行きました。

 パック御飯とレトルトカレーで晩飯を済ませて、いざ御開帳。卓袱台の上に置いて、包んでいる布の結びを解いて・・・・まさか白い煙は出ないと思うけど・・・・


 蓋が勝手に持ち上がって・・・何かひょろっとした小さな生き物が2つ3つ飛び出しました。ネズミ?? 驚いて箱を放り出しました。するとそれを追うようにちょっと大きな白っぽい物が出て来て、僕の前で背を丸めて立ち止まりました。ヒゲの生えた丸い顔を僕の方に向け、尖った歯の並んだ口を少し開けて、突然・・・・


『 にゃあ 』

「猫か・・・・ そんな訳あるかあ!!」 古い箱の中から突然あらわれるなんて、普通のネコであるはずが無い。「オマエたち、怪しいぞ!」 緊張の時間が数秒。 僕も『ネコ』も動けない。


「たまこ、無駄だよ。バレてるよ。」

 突然の声に振り返ると、卓袱台の横にほっそりとした和服の女性が立っていた。手には草履を持って。細かい和柄の着物をきっちり着て、落ち着いて涼やかな表情。どこのお姉さん?? っんなことある訳がない。部屋の戸はちゃんと閉まっている。こいつも怪しすぎ。 「・・・あんたも・・・怪しいものか・・・」



「見られたからにはしょうがない。そのとおり、わたしらは『あやかし』だよ。」

「な、なんでここに・・・」 理由を訊いても仕方ないけれど、何か話しをしないとマズいような。

「ちょっと失策しちゃってね。文箱に隠れたのだが、その箱のまま封じられてしまったらしい。この後どうするかは御前次第だけど、とりあえず封じを解いてくれた礼はしなきゃね。」

 封じられていた・・・なにかとんでもない物を出してしまったのでなければ良いのだけど。この後は口封じに殺されるというのもありそう。とりあえず丁寧にお尋ねするしかないですよね。

「えっと、貴方様?はどういう御方でしようか・・・」

「なあに、年経た狐の妖怪、妖狐だよ。悪行の果てに封じられた訳じゃないから、そう心配をおしじゃないよ」

「はい。ではヨーコ様とお呼びしてよろしいでしようか。」 自称悪党ってのはそういないですよね。まだまだ用心。

「あはは、ワタシは猫又だよ。お肉は好きだけどヒトは食べるつもりないから安心してね。」

 その声はさっきの『ネコモドキ』らしいです。振り返ると、いつのまに着替えた?のか、昔の女学生のような姿の女の子。頭の上には三角の耳。ネコミミの袴少女。それ系のコスプレではアリな姿だけど、これは怪奇猫娘!あまりに生々しいです。耳は少しづつ左右に動いているし。

「あのう・・・たまこさん?でしたっけ」 さっきの化け狐?さんのセリフを思いだしたので、とりあえず敵意の無いことを伝えます。食われなくても、「とり殺す」とか「精気を吸う」とか猫又の話は少しは知ってますから。



 どうやら、文箱を包んでいたボロ布は「時封じの呪布」という物だそうです。空き家に忍んでいるところ突然入って来た人に見つかりそうになり文箱に隠れた。その人はどうやら盗人で、手近の布で箱をくるんで持ち出した。たまたまその布が呪布だったので、そのまま出られなくなったというような具合らしいです。それから数時間経ってそろそろ苦しくなったところ、僕が包みを解いたので大急ぎで飛び出したんだそうですが・・・・

 あれ、時間経過が合いませんよ。あの部家の荷物は伯父一家が越して行って以来10年以上放置されているはず。あ・・・時封じ。

「えっと、ところでみなさん、今は何年でしようかね。」 何かマヌケてますが、お約束ごとですから訊いてみることにします。

「んと、どの暦でかしら。」 魔物暦とかだと困るけど・・・・

「どれでもけっこうですから。あ、ヒトの暦でお願いします。」 服装から見ると明治か大正か。できれば西暦で。

「己亥の年で日本の暦は明治32年で、欧米の暦なら1899年。清とか余所の暦は判らないなあ。」 ミケ猫のたまこさんは教養豊かなようです。(耳は左の半分が黒で右の半分が茶色です。)

「ああ・・今は西暦で2016年です。年号は明治のあと大正・昭和と来て今は平成になってます。」

「ふうん。どうやら120年近くも経っちまったようだね。時封じって噂以上の物だったようだね。そうなると世間の様子もちょっとは変わっただろうかね。」 やはり布包みの中では時間がすごく遅くなっていたようです。

  ・

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  ・

 なんとなく3人?で卓袱台を囲んで座ってます。非常食の菓子やおつまみ物の袋を開けて、僕と『ヨーコさん』はお酒で、自称未成年の『タマコさん』はお茶。

 すると、まっ先に飛び出したあの小動物が『タマコさん』の膝に登って、ビーフジャーキーに手を伸ばしました。

「あの・・・その3匹も妖怪なんですよね。」 ずっと動物の姿のままだけど、あの狭い箱から出て来たのだからただの動物のはずは無いでしょう。

「あ、こいつらは『かまいたち』だ。まだ子どもだから変化できないしヒトの言葉は話せないけどな。」 カマイタチの子どものようですね。カマイタチ? 鎌鼬って切り裂き技使うけっこうヤバイ妖怪じゃないかしら。

「いたち?フェレットだっけ?」フェレットと言えば室内ペットとして人気らしいですが。でも妖はペットじゃないような。

「ね、かわいいでしょ。いたち。獣姿だけど行儀良いから部屋の中でも大丈夫だよ。」

 

「産後の具合が良くなくて母親が死んだところを、通りがかりのタマコが拾ったんだ。よく懐いているだろ。」 うん、確かにフェレットの姿はかわいいです。妖だけど。



―――― お互いに疲れた気分のまましばらく無駄話。 ――――



「このカリっとした揚げ物、お酒に合うねえ。」ヨーコさんはボテチが気に入ったようです。

「あの、猫ってイカはいいんですか?」「妖には関係無いよぅ。」 タマコさんはスルメをかじってます。

「ツマミも美味しいし、酒が進むねえ。」 高い大吟醸です。全部は飲まないでください。

「ようこ様、飲み過ぎですよ。耳、出てますよ。」 見ると、ちょっとお酒に酔ったようなヨーコさんの頭には三角の耳が出っ張ってました。やはり化け狐のようです。耳が黒っぽいけど、銀狐でしょうか。


おつまみ物を食べてお腹が膨れたフェレットたちがうとうとしだしたので、空き箱に古毛布を入れて寝床にしてやりました。化け狐と化け猫は、今日はこのまま部屋でゴロ寝すると言うので、毛布を出しました。この後のことは明日考えるそうです。僕は疲れたので2階の部屋で寝ます。


補注:カマイタチの鼬たちはニホンイタチです。太志はイタチとフェレットの区別が判っていません。化け猫はわざと混同しています。


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