無事に秋になりました。
あれこれ続いたお話もあともう少し。
大騒ぎが終わって、すっかり落ち着いた犬人村。
≪黒犬村のリニちゃん≫
夏の初めに魔獣暴走がありましたが、谷の村はほとんど被害無しに済みました。黒犬村は麦をぎりぎり収穫できたので今年の冬を越す分は大丈夫だそうです。でも川沿いの良い畑を傷められ、そこは秋の麦の種子蒔きができません。やはり今年の冬は節約しなければいけません。
魔獣暴走の年は山の獣が少なくなると記録にありました。やはり夏を過ぎて秋になっても鹿も猪もほとんど出て来ません。雪が来る頃には山から降りてくる獣もいると思いますが、このままだと冬の間の肉が足りません。時々ヨウコ様があちらで狩った猪を持って来てくださるので助かっています。あちらでは猪が増えているらしいです。
ライム様が来られました。春にお兄ちゃんたちが手伝ったビデオって言うお芝居。ずいぶん好評だったそうです。それで儲かったからって、また柔らかい布をたくさん持って来てくださいました。今年も子どもたち皆暖かく過ごせます。
村に井戸ができて、もう1年になります。川まで行かなくて良くなって子どもたちはずいぶん楽になりました。白牙村みたいに川の水を引くのも良いけど、汲みたての井戸水は美味しいです。先週はフトシ様が面白そうな物をくださいました。物語の巨人の国の鍋のような物。水を入れて下で薪を燃やしてお湯を沸かすって、やっぱり鉄鍋ですね。体を洗った後、体ごとお湯に浸かって暖まるものだそうです。お湯で洗っても冬は寒いですから、全身暖まると気持ち良さそうです。わたしの父さんとニミちゃんのお父さんが鍋を載せる巨大な竈を作ってます。こんな大きなお鍋って、どうやって作ったのでしょうか。
黒犬村と大犬村との間に丸木を組んだ大きな橋ができました。荷物を積んだ馬車がそのまま渡れます。大犬村へ遊びに行き易くなりました。街道を逸れてこちら側の道を通る旅人もいます。白牙村に商人宿ができているので、ここを利用する人みたいです。宿場に泊まるより安くつくからだそうです。旅人の荷物持ちをしてお小遣い貰う子もいます。
今日の午後は村の仕事はお休み。昼から夕方まで特別にすばらしい宴会が開かれました。フトシ様とタマコ様が来週に結婚されるんです。その前祝い。ヨウコ様とミヅチ様、ハルちゃんたちとサヨちゃんも来ました。大勢にならないようにと、余所の村からはお二人と関係の深い人だけ集まりました。
暴竜の呪で猫にされて大怪我されたタマコ様はすっかり元通りになられていました。その横で照れたように笑っているフトシ様。フトシ様は竜の下敷きになったタマコ様を助け出すために竜の首に斬りかかったんですよね。『愛する者のためには躊躇わないのが勇者の証し』って黒犬様の言葉。猫の姿のタマコ様を抱えて走るフトシ様は誰も追いつけない速さだったって、お兄ちゃんが言ってました。
結婚する2人の挨拶のあと、村の大人からお祝いの言葉が続き、そのあとわたしたち黒犬村の子どもが結婚のお祝いの歌を歌いました。猫人の女の子は色の布を花のように付けた輪飾りを持って来ました。猫人村で新婚の女性に贈る物だそうです。話を聞いて急いで作ったんですって。それからリナちゃんがビーズの付いた可愛らしいティアラをプレゼント。先月の祝賀会の時に、タマコ様が結婚するって感じて、かんばって作ってたって言うんだけど、わたしは全然気付かなかったですよ。
獣人と人間の結婚って、昔の物語にはありますが、今のこの国では有り得ないことです。人間は偉くて獣人はその下僕と言われ、それをあたりまえと思わされていました。でもそんな事は越えて、タマコ様と結婚されるフトシ様。すてきです。
結婚式は向こうの神様の所でおこなわれるそうです。そういえば、こちらに来られている方たちって、神様の加護持ちとか神殿勤めとか、すごい方が多いですよね。結婚式はきっとすごいんでしょうね。