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祝宴


 魔獣暴走の騒ぎもあらかた落ち着きました。まだまだ心配事はありますが、そろそろひと区切り。残っている志願兵の人たちも手伝ってくれて、畑の仕事もほとんど片付きました。

 今年は領内の南の地方は豊作らしいので、早いうちに小麦を買いに行く事になりました。今から出れば農作業が忙しくなる前に戻って来れます。縞猫商会の馬車が8台出ますから、5人づつ載せて計40人を運べます。南へ帰る者を中心に乗せることになりました。明後日が出発です。すでに徒歩や定期便の馬車で村を離れた者も含めて、これで1/3ほどが帰郷することになります。


 志願兵の人たちがいるうちに戦勝の祝いと感謝の宴会をすることになりました。今日はあちこちの村でいろんな仕事をした人たちも白牙村に集まっています。2人の監督官さんにも来てもらってます。指揮官様たちも一応呼ぶつもりだったのですが、すでに砦を離れていました。

 昼間の宴会ですから、ちょっと豪華なお料理ぐらいでお酒は無しです。スナおばちゃんはらいむちゃんとみ~ちゃんを手伝いに使って山のような唐揚げを作りました。僕はレンタルしたマイクを広場にセットしました。


 縞猫商会頭取のトムさんの挨拶、「暴走の兆候に気づいてからほぼ1年。みなさん、本当に良く働いてくれました。前回の悔しさを取り返して余るような成果でした。各地から来ていただいた志願兵の皆さん、ありがとうございました。」という言葉で祝勝会が始まりました。

 最初はまず今回の事態にあたった村人たちの話。前に並んだ人たちがひと言づつ。最初はトムさんで、「この谷間には猫人と犬人の村がありますが、今まではほとんど交流がありませんでした。魔獣の兆候に気づき、犬人の村と共同して守りを固める事を提案したのが、この茶虎村の村長でした。」茶虎村の村長は、「村が大猪の群に襲われた時、少し前に犬人村が大狼に襲われたって話を思い出してね。それで機会を見て訪ねて行ったんだ。」それを受けて黒犬村の村長は「あの時は、狼退治した魔力持ちの猫人に会いたいって来ただろ。そう言われると断りにくいだろ。ははは。それがその時の猫人。タマコ様に拍手。」


 突然振られて前に呼ばれた珠子さんは「あはは、最後に怪我しちゃって、みんなには心配かけたよね。もうすっかり元どおりだからね。んで、あの時はね、犬人村の子どもたちが助けてって来てね。呼びに来てくれたのは・・・」珠子さんはニミちゃんを見つけてマイクを渡します「えっとね、あの時はたいへんだったけどね。でもそのあといろんな人が来てくれて、いろんな事があって。猫人のお友だちもできたし、エルフさんのお料理も、宿場のお菓子も。」トムさんが話を引き取って、「タマコ様のお仲間の方々には助けていただきました。」そのマイクを取った宿場のおばちゃんは「トムさんが商会を拡げて、いろんな人の繋がりができたのは大きいよね。そう、エルフさんたちもね。まあ、お菓子って言うと、煎餅の焼き型を作ったピリさんかね。」

 ふたたび話が脱線ししまた。「煎餅の焼き型よりも、焼き肉鍋の方が自信作なんだけどなあ。ありゃ魔獣と関係無いか。そうなると、やはり子どもたちの剣を打った犬人村のサウだろうな。」「ありゃ数が多いだけで鉈より簡単だ。鞘とベルト作ったカジさんの方が大変だったろうさ。しかしなあ、オレからすると、あの猫車を皇国で作る事を思いついたトリだろう。」 猫車は魔獣の死骸を片付けるのに大活躍しました。みんなから拍手が起こって、関わった鍛冶師のサウさん、ピリさん、木工師のトリさん、シムさんの4人が前に並ばされました。


 見返したら、あの大狼の襲撃があったのはちょうど1年前ぐらいなんですよね。短い間にいろんな事がありました。


 余談がひと区切りしたところで、茶虎村の村長さんが前回の魔獣暴走の時の話をしました。畑の縁の柵は無く、かわりに兵士と徴用された村人が剣を持って並び、その多くが魔獣に殺されたそうです。年長組の子どもだった彼やトムさんはその時に両親を亡くしました。両親や片親を亡くした子どもは多く、襲われた村では子どももたくさん死んだと言いました。「だから、今度は何とかしたいと思ったんです。それにはいろんな人の知恵と手助けが要ります。」「最初は少しでも被害を減らせればと思って声をかけたのです。でもいろんな人の知恵が集まって、ひとつづつ積み上げて、そしてまた新しい思いつきが生まれて。そして最後にはすべてが予定以上にうまく進みました。」トムさんは神様に感謝を捧げて締めくくりました。


 僕たちお助けメンバーが簡単に紹介されました。やはり珠子さんは人気があります。山ノ神の所の白犬さんが手を振ると志願兵たちから歓声が上がり、龍神様の所の2人にも盛大な拍手が。

 今日ここには来ていないけれどと、エルフさんたちの功績も紹介されました。400年間の魔獣の記録を残した記録者の話。それを見つけ出しまとめなおしたカーナさんの話。エルフ村と猫人村の縁を作ったワサカさんたちの話。エルフ料理のきっかけになったファラさんの話も。怪我人を治療したエリンさんの名が出た時は大きな感謝の声。使って空から魔獣の動きを追ったカイトさんと大鷲の働きには驚きの声。


 その次は、討伐戦の英雄の紹介。一番に挙がったのは、やはりあの獺人の2人でした。怪我は治ってもまだ体力は戻っていない様子です。「だってね、あんだけ考えて準備したのがうまく行かなかったら悔しいよね。」「だって、あの時は、できるのが私たちしかいないって思ってね。」「怪我するとかって、あの時は何も考えなかったし、志願した時から死んでもいいと思ってたけど。」「魔獣のいる中、私たちを探して、夜の暗い山の中を運んでくれたんだよね。」 それを受けた形で、夜中に観測所へ山道を走った6人が紹介されました。「猫人って、あんだけ暗いのに平気で走るんだぞ。」「犬人さんって、怪我人背負ってても追いて来れるんだよ。」皆で大笑い。

 続いて第一拠点で魔獣と対峙したメンバーが紹介されました。第二拠点で、大型の魔獣を狙い撃つ間、近寄る小型種を牽制する役に志願した者たちが紹介されました。夜中の巡視を買ってでた猫人たちも称えられました。そして、魔獣の侵入に備えて柵に沿って並んだ者たち全員に拍手。怪我人は出たけど、全員無事に生き残れたのですから、それは何より誇って良いことでしょう。


 続いて裏で支えた者たちの紹介。ほぼ一ヶ月、山の上で見張りを続けた第一観測所の話には皆からねぎらいの言葉が。3つの観測所に資材や食料を運んだ者たちの話も出ました。見張り櫓の上で旗を振って戦況を伝えた猫人の女の子たちの話もありました。女の子のひとりが「良い音の鐘を作ってくれてありがとう」と叫びました。

 皆に配られた救急用品の布袋や布鞄を縫った女性たちの働きも紹介されました。志願兵の中から「毎日うまいメシを付くってくれた奥様たちに感謝!」という声も上がりました。短槍を拵え、剣に柄を付けた職人さんたちの作業の様子も出ました。木を伐って櫓や拠点を作る作業をしてくれた犬人の樵たちの働きが紹介されると村人からも大きな喚声があがりました。あとはあれこれ次々と。ほんとに、限られた時間の中でそれぞれ重要な仕事をした人たちがいました。最後は皆でお互いに感謝の言葉。


 それから大勢が知りたかったらしいイレギュラーの暴竜が退治された時の話。日本の妖怪団が前に並び、ジミー君が説明しました。み~ちゃんが霧を出して村を隠して谷を素通りさせようとしたこと、それがバレて暴竜が火を吐いたこと、村が焼かれそうになったので、急いでらいむちゃんが閃光で目潰ししたこと、スナおばちゃんとハルちゃんたち炭の粉を使って暴竜を焼いたこと、ソウさんが掘った落とし穴に落ちたこと、その隙に珠子さんが斬りかかったこと、そして倒れたところを僕に首を切られて絶命したこと。ひとつづつ、皆が驚きの声や笑い声をあげながら聞いてくれました。あの時は夢中だったけど、あらためて整理してみるとこれだけですよね。珠子さんが元気になったから、僕も笑っていられます。


 そして、砦に集合する際に道中の事故で死んだ3人と病死した1人の志願兵と砦で事故死した傭兵2人の名が読まれ、皆で冥福を祈り、そして大勢が生き残った事を神様に感謝して、祝勝会が終わりました。


あれこれあったけど、終わってしまえばすべて過去。

獣人の村にはもうじきす平常が戻って来ます。


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