戻ってくる日常 (1)
一大イベントは一気に終わりました。ここから平常に戻るまでもまた物語。
あとしばらくお付き合いください。
※長さの都合で2部になっています。
いつものように目覚ましの音で目が覚めて。今朝は横に珠子さんが寝ていますが、とにかく平常の一日を始めるのが大切。身支度をして、部屋を片付けて下に降りて雨戸を開けて。それに合わせたように、陽子さんと小代ちゃんが来ました。普段ならちびたち3人も一緒なのですが、今日はまだ黒犬村にお泊まりしています。
珠子さんの姿を見つけて小代ちゃんが駆け寄って来ます。「小代ちゃ~ん、ありがとぅ~っ。」って、珠子さんに抱きつかれて。お返しに珠子さんをあちこちぺたぺた触って、「良かった、妖気も元に戻ってるね。」と。そして、横にいた僕に向かって、「珠子姉さまのお腹の中、太志兄さまの精気が感じられますけど。ちなみに排卵日は3日ほど先ですから。」って。体内透視でしょうか。
僕は卓袱台とテーブルの上に朝食の用意をします。四角いパンに丸いハム。小代ちゃんが摘んで来た豆はちょっと育ち過ぎだけど、これはしっかり茹でてマヨネーズ載せて。犬人村とは少しづつ違う日本の朝食。惰性で点けるテレビからはあまり代わり映えしないニュースが流れて来ます。あと、食べながらお互いの事など話すのもいつもと同じだけど、今朝の話題の中心はやはり珠子さんで、ついでに僕の話。そして陽子さんは「ちびたちも、今晩には帰ってくるからなあ、夜は太志と珠子の婚約パーティーだなあ。」って。なんで・・・
そうしているうちに、タッちゃんが顔を出しました。まだ向こうが片付いていないだろうからって、また手伝いに行くそうです。珠子さんがすっかり元に戻った事を伝えてもらう事にしました。向こうではジミー君やソウさんたちが心配しているはずですから。
陽子さんは昨日からケーキ屋さんに行ってます。珠子さんも午後からはたまこ屋に行くと言ってます。この時期は忙しくないけど、あまり社長の奥さんに任せっぱなしにしておけないからって。
僕は、今回の件でいろいろ気遣いしていただいた神様方の所へ報告に行かなきゃいけないような気がしました。朝のうちに、珠子さん連れて御近所の神社を車でひと回りして、それからたまこ屋へ行くことにしました。小代ちゃんも一緒に行くと言いました。
珠子さんと小代ちゃんを載せて、まず村の稲荷神社へ珠子さんが元に戻った事を報告。それから繭神様と機織神様の所へ。討伐の結末はタッちゃんから伝わっているでしょうけど、元に戻った珠子さんを見せなきゃいけません。お詣りしていると、ふんわりワンピース姿の女性が現れました。繭神様でした。突然僕の手を掴んで「けっこうな妖力を貰ったみたいですね。これなら珠子ちゃんの連れ合いになっても問題無いですね。」って。それから「結婚式はいつ頃ですか。」って。やはり神様はすっかりお見通しのようです。
それからこっちへ戻って、下の村の神社へも報告。田ノ神様から山ノ神様へ話が伝わるはずです。白犬さんたちはまだ向こうにいてくれています。小代ちゃんはいつもの摂社へ行くので、僕たちもそのうしろで御挨拶とお礼。小代ちゃんが授かった治癒術が無かったらたいへんでした。最後は龍神様の所。まだみ~ちゃんと配下の2人は向こうで片付けをしてくれていますから、そのお礼をしなきゃいけません。
こうしていくつか鳥居を潜ってお参りしたけれど、小代ちゃんと違って僕の能力は何も発現しませんでした。竜から妖力貰ったみたいだけど、これって何かに使えるのかしら。
そこから商店街を通ってたまこ屋へ。商店街のスナおばちゃんの総菜屋さんは、なんと『新装オープンセール』やってました。「10日も休むなんてそうそう出来ないんだから、知り合いに頼んで一気にやってもらったんだよ。」って、外も中もすっかり改装されていました。さすがは大妖怪です。スナおばちゃんにも、元に戻った珠子さんを見て喜んでくれました。
たまこ屋もこの夏のうちに立て替え工事が始まるのですが、それに向けてでしょう。横の携帯電話屋は仮店舗に移転してて、建物を壊しはじめていました。
さてこのあと、珠子さんと小代ちゃんは夕方までたまこ屋に居るそうですから、僕はどうしましょうか。やはり決めたからには早い方が良いです。
電話をかけると、うまい具合に僕の母ちゃんと姉ちゃんは家にいました。
「なんだい。急に話があるって。」「えっと、僕、結婚することになりました。」「太志もやっとそういうフウになったんだ。」「で、ドコの娘?? アンタ、どうやって見つけたんだい」「えっと、貸してる母屋に住んでるうちの一人なんですが。母ちゃんも会った事ありますよね。」
珠子さんの事を説明すると・・・「あれ、あの娘って高校生じゃないの? アンタってロリコンなの!」っ。珠子さん、高校生でも通用するかもしれないけど、実態はロリじゃないですよ。「珠子さんって、大学生ですよ。」表向きは。「ねぇ、ひょとっとして出来ちゃった婚??」って、そんな事は無いですよ。たべられちゃった婚ですが・・・ 「それで先方の親御さんへは挨拶に行ったのかい?」 表向き、珠子さんの父親は失踪で、母親も連絡困難で、親戚の伯父さんが後見という事になってたはずです。
今度の日曜に珠子さんと一緒に来る事にしました。兄ちゃんにも来てもらって、父ちゃんにもきちんと話をしなければいけません。「しっかし、珠子サンねぇ。ちゃん呼びじゃなくって、さん呼びしてるんだ。アンタらしいねえ。」