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なんで俺が指揮官なんだろうか

いよいよ魔獣暴走が始まります。

ただその時を待っている者の話。


 どこで掛け違ったんだろう。魔獣相手とはいえ軍の指揮官なんて柄じゃない。というか、元々軍人なんて向いていないんだ。軍人の家系の次男だからって東の国との戦争の時は部隊長に担ぎ出された。それを断りきれなかったのが間違いの始まりだったんだ。


 そうさ、軍団長は軍の兵をまとめる者って、兵団はそれぞれ士官がとりまとめて戦うし、作戦は兵団の参謀が集まって決定する。まあ、参謀や部隊長の会議を招集して上座に座るという点ではまとめ役にはちがいない。要はここを真ん中に集まれって目印。所詮は山の天辺の印の旗。飾り物の旗は、折れて踏まれて汚れれば別の旗に変えれば良い。担ぎ出されて何度か戦って、勝てば褒めてもられたけど、負ければ責められる。そして大敗したら責任とらされて交代させられた。その後は出番もなく、戦争が終われば敗け戦の負い目を挽回する機会は無くなった。

 まあ、俺は次男だ。跡継ぎの兄貴が見苦しくない程度の戦績を挙げていれば、俺は不名誉を理由に領地に追いやられて終わるはずだった。俺はそれも仕方ないと思っていたのだが、問題は兄貴の評判だ。表向きの発表ではソーニの森の戦いは激戦の上の勝利となっているが、実際は敵の3倍の兵力で攻めながら大被害を出ての辛勝。敵の策に嵌ったまま退却の進言を聞かずに無理押して損害を大きくしたらしい。それでも勝ち戦の指揮官だから、我が家は西領に領地を得た。その因縁が回り回って俺に飛び火して来たという事だろう。


 今年の春早々、皇国に続く西の谷で魔獣暴走があるという話が都に伝えられた。確かにそろそろあってもおかしくない時期だが、東の戦争ですっかり忘れていたらしい。討伐の兵士は国じゅうの貴族がそれぞれ出し合うのだが、その指揮はその地域の領主がする習わしだと言う。わが家は西領12家のひとつだ。今回の討伐軍指揮官をどの家から出すかという会議で、武勲の家柄とかいう事で我が家に決まったらしい。魔獣討伐は普通の戦より危ない。兵士で死ぬ者は多く、指揮官も無事では済まないことがある。前回の魔獣暴走では指揮官は重傷で参謀が死亡という大被害だったという。だから、討伐軍の指揮官はたいてい次男か三男だ。そして俺がその役をするのは必然だった。親父は「魔獣相手なら負けてもさほど不名誉では無いしな。」と俺に言った。


 一応挨拶かたがた前回の指揮官~現在の男爵家当主の弟なのだが~に会いに行った。しかし話してくれたのは魔獣に襲われた時の怖さと愚痴ばかり。「奴隷兵がもっと戦えていたら・・・突然雨が降らなければ・・・剣で突き刺してもその次その次と押し寄せてくる・・・」 同行した参謀たちは親友だったらしい。なんとか聞き出したことは、魔獣暴走の兆候があるまで谷の下の砦で過ごすこと、武器と食料は砦が助けてくれること、兵士の大半は志願した奴隷と市民で時間稼ぎにしかならなかったということ、兵士のまとめ役として領主軍から士官が来てくれること、指揮官が選んだ者を参謀や従卒として連れて行けること、それぐらいだった。つまり指揮官と言っても、前の戦争の時のように「飾りの旗」だと思っていた。

 砦に出発する直前になって判ったことは、各地の諸侯は人数合わせに適当な兵士を出すだけ、領主軍の士官は兵士の管理だけで指揮はしないこと、砦の軍は砦にいる間の面倒は見てくれるが討伐の手伝いはしてくれないこと、そして魔獣討伐戦の作戦や駐屯地での一切は「討伐軍指揮官一行」がしなければならないという事。しかし何をどうやったら良いのか。砦の駐屯軍団長の話では、前回の討伐の時は参謀がすべて仕切ったらしい。しかしその参謀は2人とも死んでいて話を訊けない。

 砦で着任の式典のあとの歓迎会で、討伐軍が進駐する村にある商会の代表が挨拶をした。どうやら、防衛の準備や駐屯地の宿舎の用意は村でやってくれているらしい。さらに、商会の伝手で魔獣について調べて作戦も立てていて、前衛戦は村の獣人を中心にやってくれるらしかった。そうなれば、言われるままにすべて任せるしか無いだろう。


 いよいよ魔獣が来るらしい。谷の上の魔獣の湧き出し口の様子は獣人が監視して詳細に伝えられて来る。どうやってるのだろうか。

 どの村も丈夫な柵に囲われている。魔獣が来る道筋に沿って防塁や溝が造られているが、冬の間に村人がやったという。駐屯地の宿舎などは商会が建てさせたらしい。志願兵たちの訓練や武器の整備も商会の者がやっているようだ。商会が手配したのだろう、防衛戦では強力な攻撃魔法の使い手が参加するという。監督官に訊いたところ、志願兵たちの食事や身の回りは村が面倒見ているらしい。あちらは快適そうだ。

 俺たちのいるのは谷の下側の村。いちばん砦に近いというのだが、ここは前回も指揮官の陣があった場所だ。軍の宿舎にするためと言って村人は全員疎開してしまっている。また魔獣が暴れて被害が出るのではないか、不吉な感じがすると言う兵士が何人もいる。

 村人が全員疎開してたのは予想外だった。駐屯地で必要な物や役務をする人手を用意しなければならないと進言は受けていたが、たぶん商会が用意してくれているか、そうでなければ村人を徴発すれば良いと思っていた。駐屯地に着いた日の夕飯を置いておいてくれたのは有難かったが、翌朝は早速困った事になった。領主様が寄越されていた女奴隷というのは、どうやら城の奴隷頭らしかった。見過ごせないと判断したのだろう、領主様の命令書を突き出されたが、そうしなければどうしようもなかったという事は今では判る。


 不満と不安がだんだん積もり積もって来ているが、それもあと少しだ。魔獣が来てしまえばすべて終わる。そう思うしかない。兵士たちも俺たちも。無事生き残って帰れたら、軍隊を本当に指揮するという事をきちんと学びたいものだ。


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