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犬人あらわる

≪陽子≫


 今日は土曜で私のバイトは無し。昼から細志は次の就職先の面接に。珠子はスナばあさんの所の手伝い。ちびたちは庭で飛び跳ねて遊んでいる。


 昼飯たべてから、しばらくぶりに縁側でのんびりしていたら、村の猫が一匹やって来た。珠子に用事かと思ったら私宛の伝言だった。稲荷神社の守狐が近所の猫に使いを頼んだらしい。

 ちょうど自転車で帰って来た珠子と一緒に神社へ行くと、やはり困った様子の守狐が待っていた。

「社の裏の洞に、向こう側から何者かが入って来ました。中にかけられている呪で足止めになっているので、強い妖ではないと思いますが、普通の人間でもない気配です。」と。どうやら、扱いに困って私に様子を見て来て欲しいらしい。


 珠子と一緒にしめ縄の張られた洞の中に入った。少し進んで神力の壁を越すと、そこには子どものような姿のものが2人?しゃがみこんでいた。私を見てひとりが何か叫んだ。もうひとりはあわてて自分の頭を押さえた。そこにあったのは『犬の耳』だった。こいつらは何だ。犬の妖か?


―――――――――――――――――――――――

≪珠子≫


 スナおばさんの所の手伝いから帰ったら、あわてた様子で駆け込んで来た村の鯖虎ネコと出会った。お稲荷さんの狐からの伝言で、陽子さんに急いで来て欲しいという。そのまま陽子さんと神社へ行ったら、社の裏の黒犬の祠に何か現れたという話。上の社へ連絡はしたと言うけど、こういうのって対応に時間がかかるんだよね。で、陽子さんに見て来てもらえないかという事らしいね。まあ、守狐じゃ弱い妖でも手こずるだろうから。


 洞窟の中の結界にひっかかっていたのは、何と子供の「犬人」だった。驚いてひとりが声をあげた。もうひとりは、陽子さんの姿(人化してジャージ着てた)を見ると、あわてたように頭の上の耳を押さえた。背の高い陽子さんの姿に驚いた? いや、人に耳を見られて驚いた感じ。そこで私はしゃがみこんで、帽子をとったよ。子ども相手にする時は低い目線だよ。そして、帽子をとる前に猫耳を出しておいたから。

 あたしがにまっと笑ったら、『あ、ねこのみみ』その子が声を出した。あれこの言葉? あたしは、おそらくその子の言葉で話しかけたよ。

『どうしたのかな。なにか困りごと?』 

『おねえちゃん、ぼくたちは助けが欲しいの。ここは勇者の国につながっているんでしょ。』

『あのね、わたしたちの村が怖い狼に襲われているの。村の大人たちだけでは守りきれないの。』


 子どもたちが入ったのは村はずれの山の洞窟。昔ここから現れた勇者が化猪の群れから村を救ったというので、助けを求めて洞窟に入ったという。向こうでは、ひと群れの大きな狼が暴れていて、数日前には隣村が全滅したという。この子たちの村は昨晩襲撃されてかなり被害が出たらしいね。


「化狼ねえ。何頭ぐらいいて、どのぐらい強いのかねえ。しかし珠子、なんでこいつらの言葉解るんだい。」

「ちょっと訛ってるけど、普通に英語だよ。って、なんで英語かなあ。ファンタジーだね。・・・えっとね、狼はだいたい40頭ぐらい。1匹づつだと剣持った大人たちでなんとか押し返せるらしいけど、群れで襲われると村人では勝ち目が無いって。昨日の晩には男たちが戦ったけど、今晩は女も戦うって。」 陽子さんは英語はダメらしいから、あたしが通訳ね。

「そりゃいけないね。とにかく、一度様子を見に行かなきゃ。しかし、襲撃が今晩だと打てる手は限られるねえ。」


―――――――――――――――――――――――

≪犬人の女の子≫


 隣の国と戦争があったあと、わたしたちの国は災いが続いています。村のある谷間には大きな狼の群れがあらわれました。隣の村が3日前に襲われて全滅。昨日の夜はわたしの村も襲われました。男の大人たちが戦って押し返したけれど、たくさんやられてしまいました。今晩はお母さんたちも武器をもって戦うといってます。わたしたち、子どもは隠れているように言われましたが、全滅した村では子どもも生き残れていないそうです。

 そんな中、アム兄ちゃんが昔の言い伝えを思い出しました。昔々異世界からあらわれた黒犬の勇者が化猪の群れから村を守ったという話。わたしの村の近くの山ふもとの洞窟がその勇者があらわれた洞窟らしいのです。このままでは、村の人たちもわたしたちも絶対に助からない。それなら、異世界に行って向こうの勇者にお願いするしかないです。前に洞窟探検に行ったトニ君の話では、洞窟には祭壇のほかは何も無いと言ってたけど、心を込めてお願いしたら通じるんじゃないかしら。お願いは通じないかもしれないし、勇者はいないかもしれないし、いても助けてくれないかもしれない。でも、わたしにできそうな事はこれしかなかったのです。


―――――――――――――――――――――――

≪犬人の男の子≫


 妹のリニが家を抜け出すのを見て後を追いました。伝説の黒犬の洞窟に勇者さまを呼びに行くというのです。あまりに無理そうな話だけど、もうこれしか頼れるものがないのは確か。祭壇の前で2人で祈って、それから奥の岩の壁を押しました。すると不思議とそのまま向こう側へ抜けれてしまいましたが、その先で見えない壁みたいなものにひっかかって動けなくなりました。しゃがんで泣いていると、2人のひとがあらわれてぼくらに何か言いました。何と言われたかわからず、リニは小さな叫び声をあげて固まってしまいました。手前のひとは背の高い黒髪の人間でした。その姿にぼくはあわてて耳を押さえました。

 ぼくらは犬人です。ぼくらの国では獣人は貴人の前では耳を伏せないと失礼にあたります。向こうの世界の礼儀はわかりませんが、偉い人の不興をかってはまずいです。すると、もうひとりがぼくの前にしゃがみこんで、帽子をとりました。その頭の上には大きな三角の耳がありました。ほっとしてぼくはおもわず「猫の耳」って言ってしましました。するとうれしそうににっこり笑って、「どうしたのかな?」って。

 猫人のおねえさんは、貴族様のような綺麗な話し方をしました。ぼくは村の事情を説明しました。背の高い方の人はお母さんぐらいの歳に見えましたが、本当は人間ではなくて狐の獸人?で、強い魔力で人の姿に変化しているんだそうです。とりあえず様子を見るために村へ来てくれることになりました。猫人のおねえさんも変化して人の姿になれると言ってました。


―――――――――――――――――――――――

≪珠子≫


 洞窟を出ると新谷村と似た田舎の風景だったけど、あたりはみんな畑で田んぼは無し。林の樹も杉の木じゃない感じだから、やっばりここは日本じゃなさそう。洞窟は英国の田舎につながっていたのかな? でも犬耳っ子がいるなんて、やっぱり異世界だよね。

 あたりを警戒しながら草原から畑に向かって細道を歩いて行くと、少し先で何か争ってたね。まあゲームとかではお約束のような展開だけど、一応陽子さんに伝えて判断は任せることにしたよ。

「なんか向こうでやってるよ。人が狼に襲われていようだけど、どうするぅ。」

「狼は何匹いる? 人の様子は?」 一応訊いてくるけど、この距離だと陽子さんも見えるでしょ。

「人は2人かな、1人はもう死ぬね。襲撃中の狼は2匹で、向こうの1匹は見張りかなぁ。」

「じゃ、珠子は人を襲っている方の1匹を排除して。あとは私がやるから。」 やはり急襲して殲滅するパターンね。


 陽子さんは、火炎を送って藪ごと狼1匹を丸焼き。得意技の火炎だけど、草地でも躊躇せずに使うんだね。それに合わせてあたしは駆け出しながら爪の斬撃を送って、人を襲っている1匹の首をスパっとお片付け。のこりの1匹は陽子さんが大き目の土玉を頭にぶつけてノックアウト。近づいてみると、襲われていたのは若い娘さんで、かわいそうに片腕を食いちぎられていたよ。

「あ、このひと」と犬人の女の子。リニちゃんだったっけ。知り合いかな?

「村のひと?」と、ちょっと心配して尋ねたら、「お隣の村のおねえちゃん。」と。

 とにかく止血しながら介抱して話を訊くと、村が襲われたあと、隠れていた者も次々と嗅ぎ出されて襲われて、この娘たちは隙を見て脱出したけれど、臭いを追って来られてここで襲われたというような具合。やはりこのままじゃ、この犬っ子たちの村も危ないなあ。


 その間に、陽子さんは倒した狼を切り裂いて血や肉をあたり一帯にまき散らしました。血の臭いで私たちの臭いをごまかそうというんだね。殺された村びとの遺骸は放置できないので土の中に深く埋めました。


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