田舎の武器製造者
依然として就職活動は継続中。会社では技術職でなくて営業だったから、経歴や特技っていうようなウリが弱いんですよね。このまましばらく、ナイフとか造りながらフリーターかなあ。そうなると、自宅を工房にして自営業にした方が税金対策になるかも。
例の武器屋さんへ持ち込んだナイフ。1本買った人がネットで紹介したらしく、けっこう強気の値段付けなのに全部売れました。ノリで作ったファンタジーの謎武器みたいな形のやつは、店長が冗談で付けた値段で売れてしまいました。まあ、あれは戦闘用としてはまったく実用性が無いから、ある意味平和なのかもしれませんね。次はこのタイプの廉価版みたいな感じで小さな護身ナイフのような物が欲しいとのことです。切れ味が要らないならもっと安い素材を使うというのもありそうですね。加工も楽ですし。
素材に慣れて来たので、いろいろな加工方法を試しています。しばらく前に珠子さんから頼まれた解体ナイフを作りました。いろいろ持ってもらいながら感想を聞いて形を決めて行くと、結局は牛刀と出刃包丁の中間ぐらいの感じで、厚手でやや細身の小型の万能包丁みたいな物になりました。やっぱり、実用品ってそんなに変わるところが無いんですね。切っ先は鋭く手元は厚く刃付けしました。
刃を研ぐ前に、スナおばちゃんに頼んで『硬くて割れにくい砂』を強く吹き付けてもらいましたが、綺麗に梨地に仕上げになりました。少し硬くなってる感じですが、刃物用ステンって、ショットピーニングが効くんだったっけ。
珠子さんは、次はお魚用の包丁が欲しいって言ってますが、そういうのは農協ストアで売ってるのでいいんじゃないかと思います。
陽子さんからもナイフ製作の依頼がありました。ちびイタチたちは獸人化すると手に武器を持つことができます。その姿で使える懐剣のような物が欲しいとのことです。戦い方を聞くと、鎌鼬を使えないぐらいまで接近された時に払ったり、間近で突き刺すような感じで使わせるそうです。イザという時の身の守り。ここしばらく武器屋さん向けに作っているのは装飾品ですが、これは実用品です。必要な時には絶対に持ち主を守れる物でなければいけません。でも、ちびたちはこんな武器が必要になるような危険な事はしないでほしいです。ほんと。
まず、手が小さいです。妖なので握力はあるらしいですが、手に合ったサイズが使いやすいでしょう。とっさに取り出して使うのだから両刃の直刀、なぎ払うように先は斜めにして鋭い刃をつける。素早く突き刺して抜く。捻っても折れない。むしろ捻って傷を広げて致命傷を与える。刀身には血抜きの溝を入れる。手が滑って握りそこなっても怪我しない。指を守れるようにヒルトは厚く大きくする。グリップエンドは打撃にも使える。 材料の特性と加工を考えて形を考えると、細身のダガーと鎧通しを合わせた感じになりました。刀身は菱形で先は斜めに薄くして、刃は刀身の先の方だけ。サイズ的にはぎりぎり合法ですが、見た目も機能もあきらかにヤバいです。ヒルトもグリップも一体の削り出し。これも全体を梨地に仕上げてから刃を付けました。グリップには滑り止めとクッションになるように、テニスラケットに巻くテープを巻きました。所要3本ですから、試作と予備用を合わせて6本製作しました。今度武器屋さんへ持って行って、皮でホルダーを作ってもらえる所がある頼んでみるつもりです。
ついでに、陽子さんも何か要るかと訊いたんですが、「たいがいの武器は使えるけど、いちばん使いたいのは薙刀だね」って。これまた難しい武器ですね。あの大きさで刃を付けたら完全に違法ですし。
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≪珠子≫
ひょろ志がナイフを作ってくれた。あれこれ指示したけど、ちゃんと使いやすい物をつくれるじゃん。「なんかありふれた形だなあ」って言ってるけど、昔から使われて具合の良い物って、そんなに違う物にはならないもんだよ。でも特別に誂えてもらった物だから大事に使うね。
陽子さんの注文で作ったっていう、ちびっ子たち用の護身ナイフ。あの子たちはあたしの爪の斬撃みたいな技がないから、近接で使える武器って要るよね。これはひょろ志がだいぶ工夫したらしく、見たこともない形だけどすっきりして使いやすそうな物になっていたね。
今日は庭でナイフの試し切り。藁屑をまとめて塊にして、ちびたちに投げつけて、それを走って避けながら体を捻って切りつける。くるくるぴょんぴょん。小柄な分、あたしよりも器用だね。それも3匹で交差しながら跳んでナイフを上下左右に。ずいぶん楽しそう。あたしもやりたいなあ。
延々と説明と伏線貼り貼りでした。
次でひとつお話しが動きだす予定です。




