なつちゃんの話
小学生の話 なっちゃんの番です
きょうは学校の友だちのゆきちゃんの家に行きました。ゆきちゃんの家は駅の近くです。帰りにはバス停までゆきちゃんが道案内してくれました。
楽しくおしゃべりしながら歩いていると、道の角から大きな犬が。ガウガウうなりながらとび出て来ました。犬の勢いでおどろいたのでしょう。ゆきちゃんは振り向いて走り出し、犬はそれを追おうとしました。わたしの横を抜けた直後が犬を倒すチャンス。わたしはそう思いました。でもその時、ゆきちゃんが転んでしまいました。それを見てわたしの反応が遅れ、犬はそのまま倒れたゆきちゃんにとびかかりました。あわてて走り寄って、横腹をけり上げて犬をゆきちゃんから遠ざけ、犬の首を強く打ちました。
ゆきちゃんは声も出せずに倒れたままでした。近づいて見ると、服が破れていて白くてきれいなな腕から真っ赤な血が流れていました。わたしは叫びました。ゆきちゃんがけがをしたことが恐かったのです。そのときわたしは何もできませんでした。
近所のおとなの人がすぐに来てくれました。ゆきちゃんは病院に運ばれました。ゆきちゃんはふるえて泣いていました。手当が終わるころには落ち着きましたが、腕にはぐるぐる包帯が巻かれていて、いろいろ薬も出されていました。
わたしは失敗しました。たくさんミスをしました。友だちのゆきちゃんを守れませんでした。まず、おしゃべりに夢中で犬に気づくのが遅れました。犬がゆきちゃんに向かった時に、それをただ見過ごしました。ゆきちゃんが怖がって転ぶ事を考えませんでした。犬が転んだゆきちゃんをおそう瞬間を見あやまりました。あれが腕でなく顔や首だったりしたら。
普段姉妹たちといっしょに狩りをしていて、それに慣れきっていました。警戒はカンの良いはるちゃんに任せていました。身軽に相手を引きつけるあきちゃんの動きに頼っていました。わたしは一人では戦えなくなっていました。
いや、最初からわたしは間違っていたのです。これは『討伐戦』ではなかったのです。ゆきちゃんに怖い想いをさせたところで『護衛』は失敗なのです。ゆきちゃんは腕に傷を受けました。やわらかな腕の傷は消えることはないでしょう。そして犬が迫った時の怖さも消えないでしょう。
陽子おば様は「ミスに気づけば取り返すチャンスはある。」そう言ってくれました。次があるなら、その時はもっとうまくやります。ゆきちゃんの赤い血の色は絶対に忘れません。
―――――――――――――――――――――――
きょうはクラスメイトのなっちゃんがあそびにきました。なっちゃんは3つ子で、おばさんと住んでいます。なっちゃんのおばさんは背がたかくてかっこいい人。まちのケーキ屋さんではたらいているのを見たことがあります。なっちやんも背がたかくてかっこいいです。
うちであそんでお茶をのんでおかしを食べました。なっちゃんはバスでかえるというので、えき前までいっしょに行くことにしました。いえを出てすぐのところで、とつぜん大きな犬がほえながら走ってきました。こういうとき、きゅうにうごいちゃいけないってきいてました。なっちゃんはおちついていましたが、わたしはおどろいて走りだしてしまいました。そしてわたしは転んでしまいました。犬はわたしにのしかかって来ました。こわくておもわず手で顔を隠しました。
そのとき、なっちゃんは小さくエイっと声を出して、犬をけっとばしました。わたしならこわくてぜったいにできません。そして、転がった犬に向かってぎゃくに頭から飛びかかってゆきました。
そして、おどろいているわたしのそばに来て、わたしのうでを見て急に大声で泣き出しました。なっちゃんはわたしを助けてくれたのに、泣きながらわたしにあやまりました。わたしがケガをするのをとめられなかったからって。
なっちゃんがすばやく犬をけとばしてくれたので、キズはほんの少しでした。とがった歯の先で切られたようなキズなので、すぐになおると言われました。少ししたらキズのあともほとんどわからなくなるって。なっちゃんの助けがなかったら、もっとひどいキズになったはずです。
あのときのなっちゃんは、ほんとかっこよかったです。先しゅう見たアニメの騎士のようでした。お姫さまの前でおそって来る怪物を打ち飛ばして、「姫ご無事でしたか」というシーン。わたしのうでを見てくやしがったなっちゃん。わたしはお姫さまじゃないよ。でもわたしを守ろうとしてくれたんだね。でもわたしもなっちゃんがケガをするのは見たくないです。だからわたしももっとしっかりしなくちゃ。このうでのキズをわたしは大切にします。




