溜め池工事
お話はやっと6月になる頃。太志も時々あっちに顔を出しています。
去年の秋から白牙村の上の所で溜め池の工事をしています。川を堰き止めて水を溢れさせて魔獣の動きを調節するという思いつきから、村の少し上の河原に低い堰堤を造ることになりました。その繋がりで、ジミー君とソウさんが魔獣の流れと村を隔てる水路を柵に沿って造りました。しかし雨の時期を過ぎて水路を水で満たすには、水を貯める池が要ります。堰堤から取水した水を貯めるように、水路の取水口の近くの枝谷に堤を作ることになりました。そして堤はだいたいできたのですが、どこかで水が漏れてしまってうまく溜まらないという困った状態になっています。
ここと思う場所に石や粘土を沈めて見るように頼んだのですが、どうもうまく行きません。堤本体ではなく池の底のどこかに水の道ができているのでしょう。雨の時期が続いている中で、池の水を抜いて修理するのは無理。水中作業ができれば良いのですが、猫人はほとんど泳げないし、犬人は泳げても潜れないみたいです。そうなるとみ~ちゃんに頼むしか無いと思ったのですが、タツちゃんが面白い人材を勧誘して来ました。
少しづつ集まって来ている討伐軍の志願兵の中に、泳ぎの得意な獣人がいたそうです。獺人は南の方の沼地にいる数少ない獣人だそうで、この国には3家族しかいないらしいです。タツちゃんが機転を利かせて早々に現場に送り込んでくれました。冷たい水の中に何度も潜って作業してくれたそうで、うまく塞ぐことができました。
魔獣の先頭集団は水が嫌いなものが多いです。そこで、谷の途中で河原を溢れさせて進行を圧縮する計画を立てたのですが、その準備はかなり遅れています。冬の間に川の屈曲部のすぐ下の河原の出口の所に石を積みましたが、雪解けの水で崩されました。なんかと補修したのですが、その後の大雨の時に中程が切れてしまいました。雨期明けで水量が減れば工事はしやすくなりますが、あまり水量が減ると水が溜まらなくなります。もう少し上の地形の良い所に仮の堰を1つ設けて川の水量を抑えるのもひとつの方法かもしれません。
溜め池工事の功労者の獺人さんたちにも会いたかったので、この週末はジミー君たちと白牙村へ行きました。
獺人さんは、おっとり丸顔の娘さん2人でした。白牙村にはその他にも何人かの志願兵がいて、村人と一緒に働いていました。広場に食堂を建てている現場では、人間と山羊人の石工さんが一緒に作業していました。積んでいたのは河原の石を割った物だそうですが、それから見るとこの谷周辺の山では良い石材が採れるはずだと言ってました。
製材所の横では馬車で運ばれて来た丸木を降ろして皮を剝いでいる体格の良い犬人の一団がいました。南の山で木を伐る仕事をしていた人たちだそうですが、村の犬人さんたちよりも手際が良いです。
村を見て回っているうちに昼食の時間になりました。ライ麦のパンと豆乳スープ。スープの具は鱒のようでした。男手が増えたので、猫人村の奥様が交替で応援に来ているのだそうです。
食べながらいろいろ話を聞きました。伐った木を山から降ろして運ぶのに、この谷のあたりでは冬の雪を利用して谷の道近くまで斜面を降ろして、そこからは橇や馬車を使って運んでいます。南の山では山の形が複雑で崖が多いので、山から谷へはロープで吊り出して、雨の時期の水を使って谷を流すのだそうです。鉄砲出しと言うのでしょうか、日本では雨の多い山地でやってますね。曲がった川の狭い所に材木で堰を作って・・・水が溜まったところでそれを崩して・・・ って、この人たちって、材木で堰を作れるんですよね。谷の途中の堰の解決になりそうです。そして、水の溜まった堰を一気に崩せるならば、それで魔獣の動きを調節できそうです。
川に材木で堰を作るには、川底の岩に穴を掘って丸木をしっかり立てられるようにしなければならないそうです。堰を作るの適した場所があるかどうか。そこの川底の岩がどんな状態か。急いでさきほどの石工さんたちに来てもらいました。ジミー君が測量した地図やカイトさん(の大鷲)の空撮写真とか見ながら検討しましたが、やはり現地を見なければ判らないという事になりました。水の中の作業があるなら手伝うと、獺人さんたちも言ってくれています。うまく行くと良いのですが。いや、絶対にうまく行きますよね。




