日常の終わりと物語の始まり
物語の前書きです
いつのまにか貯まった構想メモ。繋げられそうな物を選りだして、適当に綴り合わせて連作物語のようにすることにしました。
元機械部品メーカーの営業の太志を縦軸に出会った者たちの話がからみ合います。
失職して田舎へ引っ越したところから始まる1年半ほどの物語。
唐突ですが、失業しました。昨日の朝に出勤したら、会社がなくなっていました。しばらく前から社長さんが“このままではつぶれる~”って言ってましたが、やはりダメだったようです。某大手メーカーの下請けの下請けです。リコール騒ぎから新製品がボツってしまったのがこっちに及んで来て、製造が止まってましたから。
給料日の次の月曜に倒産というのはぎりぎり頑張った結果でしょう。先週あたりから「私物は持って帰るように」と言っていたのは覚悟しろという事だったのかもしれません。
昨日は一日じゅう後始末。負債には追いつかないのは当たり前だけど、少しでも回収したいと思う債権者たちがあれこれ見て回ってました。その合間に設計図面や仕掛かり品などを押さえに来た元請けの社員と、何か金になる技術を押さえようとする関連会社の攻防もありました。工場の技術者の何人かは転職の勧誘を受けていました。
僕は技術系といっても営業職。お得意様をまわって挨拶して、その合間にあちこちの会社に飛び込みセールス。お得意先といっても人脈的な繋がりは無いので、そっちを辿って転職という目はありません。このまま失業するのは確か。とりあえず今日は職安へ相談に行きます。3か月間は無職というのも仕方ないかもしれません。でもその先はどうなる??
遊びに行く時間はあっても遊ぶ金はありません。街に居てもすることがありません。ぼろアパートでも家賃はかかります。交通の便が良いかわりに家賃はちょっと高いですから、思い切って引っ越すことにしました。新しい職が見つかれば、そこに通いやすい場所に移ればよいのですから。
しばらく前に大伯母が死んで、その家と土地が遺産として僕に残されました。駅からバスで10分+徒歩10分。しかしその駅が通勤電車の終着駅の次というのが問題。無人駅の前は自販機と駐輪場だけ。見事にイナカです。まあ、ネットも電話も繋がるし、車で少し行けば農協ストアとかあります。だから家賃の分倹約と思えば我慢できそうです。カエルの合唱を聴きながら、しばらくのんびり過ごすのも良いかもしれません。
大伯母が住んでいた家は国道の通る谷から小川に沿って谷を登る棚田の奥の溜め池の横。田畑はほとんど手放してしまったそうですが、集落の名家だったらしく広い庭と大きな納屋があります。母屋は広すぎるとかで、大伯父と大伯母夫婦は離れに住んでいました。僕も離れに住むつもりです。納屋は趣味の作業場に使うつもりです。このまま引きこもりになっても良さそう。
離れの建物は3年あまり無住で放ってあったけれどそのまま住める状態でした。ぼろアパートの荷物は要る物だけ整理したら軽ワゴンに積める量でした。とにかく電気と水道に連絡。都市ガスではないのでプロパンも手配。ネット接続は工事に数日かかると。それからひととおり部屋を掃除して、夕方にはすべて片付きました。寝る所の確保ができたので、明るいうちに母屋の様子を見に行くことにしました。
伯父一家が村を離れて以来、母屋は長い間誰も住んでいなかったはずです。それでも外側はあまり傷んでいない様子なので、一応は手入れしていたのでしよう。鍵を開けて部屋に入ると、箪笥や机やいろんな日用品が残されていました。いつか片付けに戻るつもりだったのか、そのまま捨て置いたのか。台所には食器や鍋などもありました。奥の部屋へ進むと、古そうな木箱や行李がいくつかあり、そのまわりには壺や掛け軸のような物が散らばっていました。おそらく値打ちのありそうな物だけ選って持って行ったのでしょう。
母屋を使うにはこれを片付けなきゃなりません。けっこう手間がかかりそうだし、中に金目の物がありそうには思えません。とにかくひととおりチェックしようと、つぶれかけた行李を開けてみると、ボロ布の間に文箱のような物が見えました。
・・・・つづく・・・