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月と海とアンチクトン  作者: 七色夢見
はじまりはじまり
7/7

[4.0]

今なら書ける気がする

「こレ、ツかえないですカ?」



 そういって、俺が差し出したのは、親指の関節一つほどの、丸い玉。

あの湖をそのまま閉じ込めたようなそれは、仄かに光を放っていて、自身に光が当たると水面のように煌めいていて、これなら《きらきら》の要項を満たすと思うんだ。


「これは…これならいけるかも」


 水色の彼女はさっきよりもずいぶんと温度の戻った視線を向け、受け取ったそれを手の中で転がしまじまじと見ている。

 そして、ためらうように口を開き、


「ねぇ、君。もう少し欲張ってもいいかな」

「俺ニでキルことなラ」

「これ…海のものよね?珊瑚とかもってないかしら」

「探してミる。色は?大きさは?要望はアりますか?」

「白で、手のひらくらいの大きさの」

「そうダね…コんなのハどうでスカ?【開封(タクト)】」


 何があったのかは未だよくわかっていないけど、運良く壊れていなかった【(ハコ)】から、お目当てのものを取り出した。


 それは、とても大きかった、珊瑚の一部。

あの湖で、長老の大樹のように水底に生きていた珊瑚の足元に降り積もったものから拝借してきたものだ。

白と黒の二対の珊瑚はどうしてかお互いに色が混じり、マーブルにとても美しいが単色の真っ白ではないことを、彼女は許してくれるだろうか。


「……」

「やっパり、だめでスか?」

「いえ、いいわ。予想以上のものが出てきて驚いただけよ。ありがとう」

「ジゃぁ…!」

「ええ、これで始められる」


その子をしっかりと支えていて、そう彼女は呟き残して少し離れた位置に立った。


「さぁ、始めるわよ。」


 彼女がこちらに手を差し出し何かを唱え始めると、俺たちがいる寝台の下に見たこともないような文様が広がる。

 淡くほんのりとそれに灯っていた光は、彼女が言葉を唱えるたびに輝きを増し、今では直視が厳しいくらいに輝いて。

 どこからかきたのかもわからない風が下から上に吹き上げ、俺の肌をなで上げていく。


 呪文のような、聞き取れない言葉を唱える彼女の周りにはいつしか無数の光の珠のようなものが飛び交っていて、

 あまりにも現実とはかけ離れた幻想的な風景にみとれてしまう。そんな場合じゃないっていうのはわかっているんだけど。


 言葉の区切りがついたんだろうか。顔を上げた彼女は自分の周りを不規則にぐるぐると飛び交う光を見て、なんだか羨ましそうな、悲しそうな、嬉しそうな難しい顔をしていた。


「もう…こんなに来てくれなくてもいいのよ?」

「それだけ、愛されているんだ」

「そうね。だからこそ…」


 彼女の周りをくるくる飛び交う光の珠。その中にひときわ大きく輝いている珠を目に咎めた彼女は何かを決断したような、そんな目をしていた。


「あぁ、あなたまで来てくれるなんて。お願いしても、いいのかしら」


 問いかけ、だろうか。光の珠は理解したかのように彼女の顔の前で飛び交い眩く点滅した。

 そして、ふよふよと空を舞った光の珠は彼女の差し出した手の上にあるあの《きらきら》に宿り、静かに鼓動しながら光を湛えていた。


「さぁ、ここからよ。ねえ、君。ちゃんと支えているのよ」


 光の珠が《きらきら》に宿ったことを確認した彼女は今までの表情を一転、鋭い眼差しをこちらに向け、言った。

 それを皮切りに彼女はまた何かを唱え始め、理屈はわからない。わからない、が、彼女の手の上にあった《きらきら》がひとりでに浮き上がり、こちらへと近づいてきた。

 俺達の下で光っていた文様は彼女が言葉を紡ぐごとに輝きを増し、吹き上げる風はどんどん強くなっていく。

 その間にも《きらきら》はぐんぐんとこちらに近づいてきて、パッと眩く輝いたかと思うと、鬼の人の胸の中心にゆっくりと入っていく。

 胸に光が入ろうとした瞬間、俺の腕の中にいる鬼の人が体をこわばらせ暴れ始めたのを感じ、漸く彼女が支えろと言った意味を理解した。

 これだけ入っただけでこの暴れようなのだ。あと7割近く残っているのに、果たして本当に大丈夫なんだろうか。


 

 何があったのかは知らない。けれど、死にかけていたんだろう俺を、目覚めた瞬間の死を覚悟するような苦しみから俺を助けてくれたのは紛れもなくこの鬼の人なんだろう。


 死んでほしくない。俺を助けた人がそのせいで亡くなってしまうからとかじゃなくて、もっと純粋に。

 鬼の面の下の顔なんて知らないし、出会ってまだ1時間も経ってない人だけど、どうか助かって欲しい。

 なんだってこんな出会ったばかりの人間(?)に、心を動かされるのかわからないし、まずこの状況もまったくもってわからないしでもう、なるようになれって感じだけど。


 俺が抱きとめる腕に力を入れなおして、どうか鬼の人が無事になります様にと目を瞑ると、瞼の奥からでも染み入ってくるような青い光が視界を包み、一切の抵抗もできずに腕以外の力が抜けていき、再び意識が遠のくのを感じた。



 


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