[0.99]
導入が難産すぎるよママ早く先に進ませて
シノノ曰く、彼や、ジュリでは、おそらくきっと宝は手に入らないらしい。
タオみたいなやつしか取れないように出来てるんじゃないかと呆れ笑いながら彼は言った。
シノノの先導に従いついて行った先には、確かに、俺にしか入れないような、そんな水中洞窟があった。
「…なるほど」
「確かにこれなら私たちは無理ね」
「この中で一番泳ぐ馬力があるのはタオだろ?俺達じゃこの水流は無理だからな」
「俺でも精いっぱいなんだけど」
そこは、どういったわけか洞窟の中からの強い水流があって、下手に入ろうとすると水流に流され、頭や背中を打ってしまいかねない危険地帯と化していた。
「怪しさで言えば、ここが一番怪しい。そっちでこれ以上めぼしい所は見つかったか?」
「私もタオも全然よ。ここになかったなら諦めた方がいいと思うわ」
確かにここ以上に宝がありそうな場所はなかったし、この洞窟の奥に何があるのか、好奇心が擽られてドキドキする。地図を拾ってこの湖を見つけた時のような胸の高まりがとめられない。口角がつり上がっていくのがわかるが、下げることなどできそうになかった。
「あ、これもう止まらない顔してる」
「おーい?タオ?聞こえてるか?危ないのは見てわかるから準備だけはちゃんとしろよ」
「シノノ、見つけてくれてありがとう!じゃあ、行ってきます!」
「あ、おい!」
友人達の声を聞き流し飛び込んだ洞窟の水流は外から見ていた時よりもずっと激しく、冷たくて、岩に頭をぶつけないように慎重に、かつ力強く奥へと進んでいく。
洞窟の奥に薄らと見える光を目指して泳いで、周囲を見渡す余裕もなく息がそろそろしんどくなってきた頃に水面に到達した。
「…はぁっ、っはあ」
いくら泳ぐのが得意とはいえ、流石にあの水流はきつかった。海でツノウオ(顔の先がツノのように尖った小魚を食べる気性の荒い魚)の群れに追いかけられて以来久しぶりの激しい泳ぎだった。
息を整えながら漸く、周りに目が向けられるようになると、そこはジャングルだった。
「なんだよ、これ…ここはどこだ…?こんなところ俺は知らないぞ」
そこは見れば見るほど不思議で不自然な場所だった。湖底洞窟のあった今出てきた水辺の正面にあるのは、静かな滝。
滝壷に落ちてきた水が先程の洞窟に流れ込んできているようだった。
周りには木々が茂っているが、不思議なことに生命の気配が一切なかった。鳥の歌声も聞こえない。虫の演奏も、羽擦れの音も、何かが動く気配も、何も無かった。草木でさえ、触れるのに、生きている感じが全くしない。
燦々と照りつける太陽からは熱を感じず、滝がすぐそこにあるのに湿った空気さえなく、肌が感じるのはただただ適温で風すらない。
いや、一番不気味なのは確実に、目の前の滝から音が何もしてこないことだろう。水は落ちて滝壺へと飲まれてく。それは確かなのに轟轟とした滝の音など一切聞こえない。今更ながらに気づいたが、水の感触は、無かった。触れているのに、触れていない。
この空間はあまりにも歪すぎて、何者かが、人の意識の及ばないところにいるような何かがこの空間だけを切り取って作り上げたのではないかと思うほどだった。
「…水には、触れない。触っているはずなのに、そこに存在しているのに。自分がわからなくなってしまいそうだ」
とにかく、宝を見つけないと、とポツリ呟き取り敢えず、私が怪しいですよと自己主張の激しい滝横の岩階段を上り、滝の裏側へと回った。
「これは…太陽…?」
滝の裏側にあったのは、太陽のようなものを模した紋が彫られた石壁だった。
一見しただけではなにも怪しいところはなく(この空間が既に怪しさしかないが)、もっとよく近づいて見てみようと一歩足を踏み出した時、突然件の石壁がどこかで見たことのあるような幾何学模様に光り、中心から左右に半分に別れ、開いた。
最大限の注意を払いながら、石壁が開いた先にある空洞へと足を踏み入れた。そこは
「なんだよ…これ…本当に一体何なんだ。こんなもの、こんな技術、こんな魔法、全てだ、全てが見たことがない」
その空洞の中、全方位が、闇だった。
闇というのは語弊があるかもしれない。闇の中には無数の、数え切れない大きさも色も何もかもがバラバラな光が瞬いていた。例えるならば、街の明かりがすべて落ちた時の夜空を、床にも、壁にも、天井にも貼り付けたようで、しかもそれは錯覚するほど、本物の空だった。
もしかすれば、これは全て本物なのではと思いながら周りを見渡していると、ひどく場違いな、けれど自分が探していた本当の目的のものを見つけた。
「あった…あそこまでは…こうかな」
前後左右もわからなくなりそうなこの空間の歩き方が何故かわかるのが不思議しかないが、とにかく、宝箱のようなものにたどり着くまでの進み方は理解出来た。
道しるべはないが頭の中に浮かぶルート通りに足を踏み出すと、足の裏に久しぶりに何かが当たる感触と、踏んだ(?)箇所から波紋のように光が広がった。夜空の中に広がる光は、昔、海に映った夜空の上を歩いた時を思い出してなんだか懐かしくなった。歩いて思い出しているうちに、ここまでに起きたことで積み重なってきた未知への恐れは消え、今はこの先、何があるんだろう、何が見れるんだろう、恐れに押さえつけられていた好奇心が顔を出してきて、踏み出す足が段々と早くなっていった。
夜空に波紋を立ててどのくらいたったのかはわからないけれど、歩くのが楽しくなってから気がつけば宝箱の前に立っていた。
「ついに…見つけた。これがあの声の言っていた宝物?鍵穴とかは…ないなぁ。ん?」
近づいてよく調べてみると、よく宝箱といわれるイメージの鍵穴のある位置に、この空間の入口の石壁にあった、太陽のような紋があった。心を決して恐る恐る触れてみると、勝手にゆっくりと宝箱が開いていき、そこから辺り一面に虹色の光が広がった。
「えっ、ちょっと、まぶしっ」
もっとよく調べてから開けるんだった――と後悔したのも束の間、俺の意識は白に飲まれて消えた。
また、後ほど