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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

茉莉と千波の放課後の秘密

作者: lilac

 祭りというのはいつも、過剰な熱気と気合とであっという間に過ぎ去っていく。我がクラスの出し物であるクラシックカフェはまあまあそれなりに好評を得て、けっこうな金額を儲けた、と文化祭会計係の友人はホクホク顔だった。


 それはともかく、放課後である。祭りは終わり、今は夕日を浴びながらの、片づけだ。本来なら片づけは翌日の午前中にするので大丈夫なのだが、一部生徒は既に今から片づけを始めている。とはいえ、祭りの熱気もまだ冷めない今、片付けなどに集中できるはずも無く、そろそろ残っていた熱心な生徒も帰宅し始めている頃だ。


 そんなわけで、この教室にはもう誰もいない。私たち二人以外は。だから、そう緊張することはない。――そういくら説いても、ちぃちゃん――私の友人である千波の赤く染まった頬は元の色に戻る気配がない。


「ね、ねぇ、まぁちゃん? も、もういい?」


ちらちらと背後を気にする視線を泳がせながら、再三の言葉を口にする千波に、私はいつも通りの笑顔を向けた。


「まだ、だめ。我慢我慢」


「で、でも」


 千波は眉をハの字にして身じろぎした。私はそこに鋭く言葉を差し込む。


「ああ、ほら、動いた。ポーズ変わっらやり直しだよ? じっとして」


「う。うう」


 しぶしぶといった様子で、千波は元のポーズ――スカートのすそをそっと持ち上げ、下着を見せるという姿勢ポーズ――に戻った。千波の頬は真っ赤で、いつも強気に上がっている目尻も、今日はなんだか不安そうに下がっている。その白い肌にじんわりと汗が浮いているのは、多分暑さや運動量のせいではないのだろう。クラシックカフェの制服であるふんわりとした生地のスカートの下には、気合の入ったかわいらしい黒い下着の他には何も着けていなかったらしく、そのあたりの無頓着さが、私はいつも心配だ。――もちろん、友人として。 


「ねえ、まぁちゃん、お願い、早く。腕疲れちゃう……」


「もうちょっとだってば。まだ、ちぃちゃんのこの、おへそから腰にかけてのラインと、太ももの曲線の美しさがまだ写せてないから」


「そんなとこ写さなくていいから!? この衣装とぱんつのデザイン写すだけだって言ったじゃないっ?!」


 おっといけない、本音が出てしまった。千波が目を白黒させるのをみて、私はくすくすと笑いかけてやる。


「冗談よ、冗談」


「本気だったら変態さんじゃない……」


がっくりと肩を落としそうになる千波は、しかしすんでのところでこらえて、肩を少し震わせただけで姿勢を崩さなかった。残念。千波が体勢を崩さなかったのを見て、私は落ち着いて、いつも通りに笑顔を向ける。


「本気なわけないじゃない、ひどいなあ、ちぃちゃん」


「うう、こんなだったら、やっぱり写真にしておけばよかった……」


 ぶつくさと不満を呟く千波。


「ん? 写真が良いなら今からでもいいけど?」


 からかうような口調で言う私に、千波はぶるぶると首を振った。


「いやいやいや、やっぱり写真はダメ。写真は」


「残念。信用ないなあ私」


今度はこっちがわざと肩を落としてみせると、千波はあっさりと引っかかって慌てた声を上げた。


「えっ、ち、違うよ、信用とかそういうんじゃなくて」


「じゃあ、なんで?」


聞き返す私にもじもじと視線をさまよわせて、千波は言いにくそうに口ごもった。


「う。えと。その。……残るのが恥ずかしいから」


「ふぅん。でも、絵も残るよ?」


 疑問と共に私が自分の描きかけのスケッチブックを示すと、千波は困ったように笑った。


「絵なら、いいよ。だって、まぁちゃんの絵、好きだもん、私」


「……」


「ちょ。そこで沈黙?! 私馬鹿みたいじゃん、なんか言ってよちぃちゃんっ」


「いやいやだって、あはは」


私は笑ってしまって返事ができなくなった。だって、千波が、あんまり当たり前に言うから。この子は、もう。


――何回私に惚れなおさせる気だろうね?


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