パールプリンセス共通① 救われること
「私の人生ってなんだったのかな……」
――――少女は粗末な小屋に鎖で繋がれている。老婆は憎悪に満ちた目で彼女を見た。
「お前は無駄に美しいからねェ明日、お前を拾ってやった日に隣村の地主様に売り飛ばしてやるよ」
老婆は扉をゆっくり閉めて小屋を去る。
助けて……少女は涙を流しながら自身の救いを願う。
一晩泣きつかれた少女はこれはきっと、彼女を見捨てた報いなのだと悟った。
『ここを抜ける!?』
『ええ、今夜決めたのよ。グランド・マダムには言わないでお願いよ!』
『抜けようとしたのは誰だい!!アンタたち正直に言いな!』
『あの、彼女はどうなったんですか?』
『あの女はここを抜けようとしたから店に売り飛ばされたぜ』
―――男が街を歩いていると、檻に入れられた少女がいた。
「……美しい」
少女はピンクダイヤモンドのような艶のある桃色の髪を持ち、肌は真珠のような白、瞳は翡翠のごとく綺麗だ。
ウェーブがかった銀の髪を一つに束ねた優男は、少女に手を差しのべた。
けれど私の腕は拘束されていてその手を取れない
。
それに私は友人に救いの手を差しのべなかった。
差しのべられず亡くなっ彼女を考えると自分だけ助かるわけにはいかなかった。
それが助けられなかった彼女への身勝手な懺悔だ。
私が彼を見ないものだから彼は私を諦めて去ると思っていた。
「彼女を私に譲ってもらえないか?」
◆◆◆◆◆
身形のよく優しげな青年、彼の元ならきっとどんな不幸な子も幸せにしてもらえることだろう。
けれど、ひっかかりがとれない。
「私には貴方様に救われる資格がありません」
「私が君を買うのに資格がいるかい?」
青年は真顔ではっきりと言う。
たしかに売り物を買うのに金を払う以外に資格などいらないだろう。
「いいえもうしわけありません」
「そんなに怯えないで、私は君を傷つけたりはしない」
「はい」
「普通なら楽な生活ができることを考えて喜ぶ場面なのに、君はなにを憂いているんだい?」
私はかつて友人が脱走しようとして、それを皆と共に摘発したことを話した。
「君は正しいことをしただけでなにも悪くない。と言っても気休めにしかならないか」
「……」
「君はとても優しい子だ。ただの人間なら薄情にも些細なことだと忘れて暮らす事を何年も気に病むなんて」
◆◆◆◆
貧しい平民の家にうまれた少女は、雪のように白き肌、艶のあるピンククリスタルホワイトの髪を持って生まれたのが幸いし、まるで真珠の妖精のように美しい彼女は、銀髪の青年ルクスに高値で買われると、彼の姉でよく似た容姿の未亡の貴婦人アラクシヤの屋敷へ住まわされ、とても気に入られる。
貴婦人は少女にコルセスナという名をつけ、自分の娘のように可愛がって数年。
貧しい生活から一変し、少女はきらびやかなドレスと安寧の生活を手にした彼女は社交界に出られる年になる。
けれども、少女は空虚であった。神から賜った美しい姿、何不自由のない生活。
それらがいつ消えるのか、少女は不安でならなかった。
彼女は決意する。美しいまま、時を止めてしまおうと―――――――――
◆◆◆◆◆
待ちに待った社交界デビュー。私はとびきり華やかなドレスを着る。
しかし、それは容易ではなく、壮絶な試練があった。
「力んではだめですわお嬢様」
涼しい顔をしてメイドは遠慮なくギリギリとコルセットを絞る。
腹部を締め上げるコルセットのせいで、意識がもうろうとして、今にも倒れそう。
馬車にゆられながら意識もゆらゆら。
なんとか会場にはたどり着けた。
「もうだめ…」
私はエントランスにたどり着くや否や、とうとう意識を手放した。
「…あいたたた」
誰かが介抱してくれたようだが、やはりコルセットはそのままで、腹部の皮肉は痛む。
「気がついたか」
「…貴方が私をここへ運んだのですか?」
格好は紳士とは言いがたいが、黒髪の若い青年で顔立ちは整っている。
だがもう数年会っていないルクスには負けるだろうか。
「いいや、お前の命を奪いにきたんだ」
ヒヤリ、ナイフの背が首に当てられる。