地主様のお嫁様 共通①
―――私は村娘カルテナ。両親が亡くなってから人の良い叔父と叔母に引き取られた。
「貧しい生活はもう沢山だわ」
「そうね」
友達二人とかしましく歩き、やれ素敵な王子さま、大金持ちに見初められたい等の夢物語を語り合う。
「地主様の妻になりたーい」
この村にはかつて恐ろしく残忍で勝手気儘な地主がいた。
畑を荒らしたり、若く美しい村の娘を拐ったり、気に入らない者は殺す暴君であった。
最近その悪名高い地主が消えて、屋敷の住民は新しく現れた人へかわったらしい。
村人への嫌がらせや少女の誘拐がなくなったのだ。
「やっだー地主なんて脂ぎったおっさんでしょ~見たことないけど」
けらけらと笑い飛ばす少女の言葉に、二人の村娘は氷のように固まった。
視線の先に目をやるとまるで絵画から抜け出したような美青年が屋敷の庭にいたのである。
「地主様……!?」
「えっあの綺麗な方が!?」
少女には地主というのは恰幅のよい中年というイメージがあった為、目をパチリパチリとさせ驚いている。
「皆さんどうかしたんですか?」
青年が村娘達の元へ歩み寄った。
「すごい!地主なのに脂ぎってない!」
噂では化け物のように残忍な醜男と聞いていたけど、まったく違う。
とても村人をこきつかうような悪人には見えない。
「…ちょっと失礼よカルテナ=ミスペラス」
「ごっごめんなさい……」
「いいえ」
「帰りましょう」
二人に連れられて後ろ髪をひかれる思いで通りすぎた。
◆◆◆
「地主様の奥方選びねえ…」
村の女性は全員強制参加だと云うこの祭りは、村の広場に集まった少女は次代地主の妻となる。
「母さん!あたし未来の地主様の奥方になるわ!!」
妹は鼻息を荒くして気合い十分に意気込んでいる。
あの子が私の分まで頑張ってくれれば参加しなくてもいいだろう。
選ばれるかはともかくとして私はこっそり逃げ出した。
「大丈夫だよ村一番の美人のお前なら選ばれるよ」
「はははっ豚みたいだけどな」
「アンタ!!」
===
こんな小さな村で嫁探しとは馬鹿げた話だ。
そして小さな村だからこそ村人の数も大体把握出来ている為、ただでさえ少ない村の若い娘の不参加者がいる事は明白だった。
「全員参加、と言った筈では?」
「これで全員ではないかしら?」
「あ、カルテナ姉さんがいないわ」
「一人くらいいいでしょ」
血走った眼をした少女達が口々に罵り合い始めた。
「いえ、待ちましょうチャンスは平等ですから」
「はい、かしこまりました」
「まったく何処にいってたんだいカルテナ」
「私、間違っても地主様の嫁なんてなれないし、負け戦なんて参加すること自体が無駄だわ」
「気に入りました、貴女を私の妻にしたい…」
「地主様の妻になれるなんてよかったじゃないか!」
「よくないわよ…」
「なにバカな事言ってるんだ!」
何が気に入ったよ、強制的に嫁にするなんて最悪だわ、私は丁重にお断りして帰った。
「なに考えてるんだい!!」
「!!?」
普段はにこにこしている叔母が鬼のような軽装で私をにらむ。
◆◆◆◆◆
「あれは…」
町の見回りで外出していたところ儚げな少女が気性の荒い女に叱られていた。
女は鞭のようなものを持って暴れまわっている。
他の住民に被害が及んでしまう。
なによりあの少女が可哀想だ。
「貴女はここでなにを?」
「カルテナの叔母です」
「お宅のお嬢さんを是非私の妻に迎えたいのですが」
「おやまあ…こんな役立たずの醜女で宜しいんですか?」
人が良いと言っているのにそんな言い方は失礼ではないだろうか。
「それにしてもなんの役にも立たないお前でもこんな立派な親孝行が出来るんだねぇ」
「援助なんてしないわ…地主様、結納金はいりません」
「なんてことを言うんだい!!」
「妻なんて大層なお立場にはなれません…ただの女中で構いませんから…どうか連れて行ってください」
これは驚いたな、この少女は何も言えない大人しい娘だと思っていた。
しかし自分の意見を述べ、彼女の叔母の前に立ち向かった。
「わかりました…すぐにでも連れて行きます」
少女の手を引いて家を出る。女は何か喚いているが、聞き取れないので無視した。