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相矢印  作者: 雪見桜
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私と兄達




「ふざけんじゃねえ、ボケ!!余計なことベラベラ喋んなっつったろうが!!」



久しぶりに大音量の怒声が響いていた。

場所は変わって、自宅のリビング。

私と仁くんが付き合っていないと証明するために一番手っ取り早いと思って仁くんが結婚していることを話したのだけど、どうやらそれがお気に召さなかったらしい。


仁くんの名誉と私の平穏のためを思ったのに。




「…俺の名誉よりてめえの平穏最優先だったろうが、絶対」




…あっさりバレた。

あの後いろんな生徒に根掘り葉掘り問い詰められたらしい。

まあその全部をあの大迫力の視線で追い返したらしいから誰も情報なんて得られてないと思うけど。



「おい、陽菜。お前それは少し反省しとけよ形だけでも」



偶然家に居合わせたお兄ちゃんが、見かねて助言してくる。



「すみませんでした」


その通り実行したらさらに怒られた。

世の中理不尽だ。



「陽菜ちゃんやるなあ。私は陽菜ちゃんのそんな男前なところが好きだよ」


「う、ごめんね愛理ちゃん。愛理ちゃんのこと晒すような真似しちゃって」


「え?良いんだよ、そんなこと。むしろどんな反応だったのか私も見たかったなー」


「…てめえ、俺と愛理とで態度違いすぎんだろ」




仁くんの隣で愛理ちゃんはカラカラと笑っている。

お兄ちゃんや仁くんと同い年で高校時代よく一緒にいたという愛理ちゃん。

周囲がわりと男だらけだった私にとって、この柔らかくて女の子らしい愛理ちゃんは憧れで大好きなお姉ちゃんだった。


あの不良盛りな仁くんが愛理ちゃんを好きになったと知った時はさすがの私も驚いたものだ。

そしてそれより何より驚いたのが、なぜか愛理ちゃんまで仁くんが好きだと知った時で。

女同士の秘密だよなんて言いながら教えてくれた愛理ちゃんの気持ち。

お兄ちゃんにも仁くんにも言えなくて密かに悩んでいたらしいと聞いたのはそのずいぶん後のことだったけど、結果両方の気持ちを知っていた私は2人が両想いとなる橋渡し役になっていたらしい。

全て終わった後に知ったことだ。

正直当時まだ小学生になりたての私にそこまで難しい恋愛事情なんて理解できていなかった。


そんなわけで私にとっても馴染み深い2人は親戚なこともあってよく私の家に遊びに来てくれる。

うちの両親とも仲が良くてお泊りすることすらあるくらいだ。

もうほとんど家族に近い上に同性の年上である愛理ちゃんには、私もいつも素直に言葉を出せる。



「それで、その北上君はどういう子なの?かっこいい?」


「かっこ良いよ!性格もすごく優しくてね」


「…弟の方は随分厄介そうだったけど、大丈夫なのか陽菜」


「え、洋文弟さんと知り合い?」


「前、家来たからな。顔は確かに整ってたけどありゃ性格面倒そうだろ」


「ああ、面倒だぞ。昔の洋文そっくりで」


「…ああ、やっぱり。なんか同じ匂いすんだよな、あいつ。そうか、あいつともこれから付き合い増えてくのか」


「だ、大丈夫だよ兄の方は!北上君はすごく常識人で優しくて温かいんだから!」


「ヘタレでチキンで苦労人だけどな」


「仁くん黙る」




そんな話をしながら思い浮かべるのはやっぱり北上君のこと。

もう、本当に夢のような出来事。

あれは私の幻覚だったんじゃないかと思うくらい、幸せな出来事。




「しかし、陽菜もちゃんと恋する乙女だったんだな」


「ヒロ?なにそれ、兄チェック?」


「いや、実は少し心配してたんだよ。陽菜って俺達の影響受けすぎたせいでずいぶん肝の据わった変わり者に育っちまったからさ。責任感じるだろ。だからちょっと安心したんだよ」


「心配せんでもこいつの見る目は確かだろ。弟の方も何だかんだで憎めない奴だし、心配ねえよ」


「ふふ、実は一番心配してたの仁だったりしてね」


「うっせ」



そんな兄達の話なんてもう私の耳には入っていない。

にやけて情けないことになりそうな顔を隠すために、私はそそくさと自室に戻る。

部屋に辿りつくと、ついつい緩んでしまう顔を隠すこともしないで自室のベッドに突っ伏す私。


すると、スマホがピピッと音を立てた。

その着信先に一気に高まる胸。

ベッドの上で正座して、画面をスライドする。



「も、もしもし!」



緊張気味に声を上げれば、ほぼ同時に同じ様な言葉が自分の声に被さっていることに気付く。

そんな小さなアクシデントも何だか嬉しい。


気付けばお互い声を上げて笑っていた。







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