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相矢印  作者: 雪見桜
13/16

俺が知りたかった彼女の秘密



「じゃあ、俺行くけど本当1人で大丈夫?」


「うん、大丈夫大丈夫。適当に時間潰して教室行くから」




午後一の授業の終了チャイムが鳴ると、俺は1人で教室に戻った。

真山さんは、授業が全部終わってから戻るらしい。まあ、騒ぎになって大変だろうから仕方ないよな。




「よう、良かったなー明良」


「……」





席についた途端、待っていたとばかりにニヤニヤ笑って千景が小突いてくる。

こいつは間違いなく灯里に何か聞いたんだろう。

構うと面倒なことになるから、放っておく。

が。



「愛しの陽菜ちゃんと恋人同士になれた気分はどうだ?いやー、本当は授業なんて受けてる気分じゃねえよなー上の空だよなー、幸せで頭空っぽだもんな」


「あー、うるせえ!!!」



無視しきれない小さな俺。

耐えかねてつい反応してしまうと、教室中の視線を浴びた。



「ほお、北上。お前、授業を煩いと言えるってことは、ずいぶん次の試験自信あるんだな」



しまったと思った時には既に遅し。

青筋を立てている現社の先生に顔が引きつる。



「や、その…すみません」



素直に謝れば、周りからクスクスと笑い声。

…千景の野郎まで笑ってんじゃねえよ。

内心悪態をつきながらも、羞恥心で顔が熱くなる。


結局、かっこ付かないまま授業は終わった。

そして、帰りのホームルーム間近。

授業のひと騒動でぐったりしていた俺が机にもたれウトウトとしていた頃、今度は急に教室が静まり返った。


いつも騒がしいこの時間帯の異変に思わず体を起こせば、教室の入り口に真山さんの姿。

教室中の視線が今度は真山さんに集中している。

当の本人は困ったように笑ってゆっくり窓際の席に座った。

居心地が良いとは言えない空気に耐えかねて、真山さんの席に行こうとする俺。




「まあ、待て明良」



制止をかけたのは千景だった。

見た目にそぐわず力の強い千景は、グイッと引っ張り俺を椅子に座り直させると口元に手を当てる。



「真山さん、なんかえらい騒動になってたけど大丈夫?」



大きな声で、サラリと重点をついた言葉。

ギョッとして千景を見返したのは俺だけじゃなかった。



「ちょ、谷口!お前それは聞いちゃダメだろ!」


誰かが諌めるが、千景は得意の笑顔を見せて一蹴する。



「だってお前らの反応みてたら誰だって良い気分しないだろ?こういうのは真正面から聞いた方が良いと思うよ」



周りから言わせると王子様みたいな笑みらしい。馬鹿らしい話だ。



「あー、大丈夫というより何の問題もないから」



千景より少し小さい声で返答する真山さん。

すると千景はすかさず声を返す。



「そうなの?てか正直な話、仁くんと真山さんどんな関係?」



突っ込みすぎた質問に教室が少しざわめく。

反対に千景の意図が分かってしまった俺は軽く舌打ちしたい気分になった。

こいつはいつも美味しいとこを持っていきやがる。…感謝してるが、何か癪だから言わない。

そしてそれより何より真山さんと森崎がどういう関係なのかは俺も誰より気になるところだ。

兄のような存在と言っていたが、一体どういう繋がりなんだ?

そこはまだ知らなかったから。




「あー、そっか。言ってなかったから誤解しちゃったんだね」




千景の問いに驚くでもなくむしろ納得した様子でそう声を零す真山さん。

そしてスッパリと簡潔に皆の求める答えを述べた。




「親戚なの」



その瞬間、教室が一気にざわめいた。

何だつまんねえと呟く声、良かったと安堵する声、似てないと驚く声。色々入り混じっている。


親戚。

そっか、親戚か。


…って、はい?

人より一拍遅く理解した俺は、驚きすぎて手からシャーペンを落とす。



「仁くんは従姉妹の旦那さんでね、私のお兄ちゃんとも学生時代同級生で仲良かったから昔から良く知ってるんだ」



スラスラと笑いながら説明をする真山さん。

いや、何かアッサリ言ってるけど真山さんそれけっこう爆弾発言じゃないか?

と、さすがの俺でも気付いてしまった。


千景もさすがに予想外だったらしく、目を丸くして真山さんを見つめている。

そして、おおよそクラス中の人間が同じ思考に陥った瞬間、地響きのような声があがった。



「旦那さんって、仁くん結婚してんのかよ!?」


「え、ちょ、ウソでしょ!?見えないって!」


「誰だよ、森崎旦那にしちゃう怖いもの知らずは!」



随分散々な言われ様だ。



「なるほど、お前らから俺はそういう風に見られてんだな」


「な、仁…じゃなくて森崎先生!」


「ひっ、出た!」



いつの間にいたのか教室のドアに体を預け、腕を組む森崎の姿。

何やら黒い笑みで教室中を見まわしている。

そしてにこりと口元だけ形を作って見事な低音を紡いだ。



「それで、何か質問は…?」


…誰も何も言えなかった。

そんな中そっと真山さんを見れば、もう慣れているのか呆れたようにため息をついている。

この状況で動じないなんて、真山さんってやっぱり大物だ。




「よし、ないな。そういう訳だから、お前ら変な噂もう流すんじゃねえぞ」


「…」


「返事、は?」


「は、はい!!」



おおよそ教師と生徒の会話とは思えない会話を成立させて、森崎は教室を後にしようとする。

その帰り際。



「ああ、そうそう真山。お前、後で覚えとけよ」



死刑宣告をされると、さすがに真山さんの顔も引きつっていた。





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