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相矢印  作者: 雪見桜
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私の好きな人



好きな人がいる。

いつも人に囲まれながらクシャクシャと顔にしわを寄せ笑う男の子。

今年初めて同じクラスになった彼の笑顔から目が離せなくなったのはいつだろう?


どんな人にも同じように笑みを見せる彼。

こっちまで幸せになれるような笑顔の彼。

気付けば私の世界はそんな彼一色に染まった。


教室の隅にいる私と、中央で笑う彼。

身の程知らずな恋なのかもしれない。


けれど、私は今日も彼を想わずにはいられないのです。



----------------------------------------





「ふざけんじゃないわよ!」



パシンと綺麗な音が青空に響いた。

それはもう見事な音色で、その音色通りに私の頬はジリジリ痛い。


…なんで私が。

そんな気持ちを何とか抑えて顔を上げれば綺麗な顔立ちの女の子4人組が私を睨みつけている。

手を振り上げていたのは、その中でも一際スタイルの良いリーダー格だ。

私は小さくため息をついて口を開いた。



「あのね、相馬さん。だから私北上くんとは本当に何でもないんだよ」



前にも告げたことのある言葉をゆっくり紡ぐ私。

すると相馬さんはキッとまた私を睨んでから涙目のまままくし立てた。



「嘘つかないでよ!私、あんたが明良(あきら)と腕組んで帰るの見たんだから!」


「いや、だからそれ私じゃな」


「あんな地味な格好してんのアンタしかいないのよ!」



パシンッと2発目。

その直後ワァッと目の前の彼女は泣き出してしまった。

顔を真っ赤にして誰かを想う相馬さんは可愛いけれど、正直勘弁して欲しい。

泣きたいのは私の方だ。

好きな人の恋人の存在を知らされて、良い気分の人なんていないだろう。


どうやら私の好きな人には私そっくりの恋人がいるらしい。

こうして女の子に囲まれるのは2度目だ。さすがに勘違いじゃないと思う。


北上くんは少し天然で色んな人にいじられやすいけど、クラス1の人気者だ。

整った顔立ちで笑顔が絶えず運動神経も良いとなれば、モテるのはまあ必然というもので。

そんな彼の笑顔にやられた私は典型的な地味女。

クラスの隅っこが定位置だ。


私と北上くんがどうこうなるだなんて思ったことは一度もない。

クラスの中央にいる彼と隅っこの私がそこから距離を縮めてゴールインだなんて夢見がちなことも思っていない。

そもそも話した回数すら片手で数えられるくらいだったから望みなんて最初から欠片もなかった。

その上恋人までいるとなれば、恋した瞬間に失恋確定なことくらいさすがの私にだって分かっていたはずなのだ。


それなのに人の心というのは上手に環境に寄り添ってくれない。

茨の道どころか進む道すらないような恋路に足を踏み入れてしまった私は酷いドMなのかもしれない。

それでも一度好きだと思ってしまえば、その後はもうどうしようなかったのだ。

だからせめて密かにこの恋を育んで、いつかちゃんと昇華できるまでそっと彼を見守っていこうと思っていた。


思っていたのに、こんなのあまりだ。

私だって失恋してるのに何でこんな痛い思いをしながら叱咤されなければいけないのだ。

辛い現実を突き付けられて、ちょっと惨めな気持ちになった私。



「泣きたいのは私だよ」


「はあ?あんた何言ってんのよ」


「だって相馬さんはこんなに綺麗で可愛くてお洒落じゃない。私なんて取るとこ何もないのに」




気付けば愚痴のように呟いていた。

話が噛み合ってないことなんて気付いていない。




「ちょ、ちょっとなに変なとこで落ち込んでんのよ!」


「相馬さんは女の子の武器たくさんあるじゃない。料理も上手って聞いたし本当美人だしキラキラしてるし」




ああ、相馬さんの顔が引きつってる。

でもそんな顔すら可愛いんだから本当にうらやましい。

その可愛さ要素の1パーセントでも私に分けて欲しい。




「私なんて地味だし料理も下手だし勉強も運動も普通だし…」


「な、べ、別にあんただって図書委員とかやってるじゃない!」


「うん、ありがとう」


「って、何で私があんたのフォローすることになってんのよ!」




相馬のノリツッコミを耳にしながら、少し吐き出してすっきりした私。

相馬さん、いい人だ。

頭を抱えてうなる姿を見てそう思った。

すでに叩かれたことなんて忘れる私は能天気なのかもしれない。



「相馬さん、話聞いてくれてありがとう。じゃあ授業行くね」


「ちょ、真山さん!?待ちなさいよ、話はまだ…」



すっきりして立ち去った私には狼狽える相馬さんの言葉も届いていない。

そして戻った教室。




「うわ!お前なに持ってやがる!?」



すぐに耳に入ったのは大好きな人の声だった。

一気に高まる心臓。

そっと席に戻りつつその姿を覗けば、いつものごとく教室の中心で北上くんが声をあげている。



「いやー、毎日ご苦労さんだな明良。本人が知ったらなんて言うか楽しみだなー」


「おま…やめろよ?絶対やめろよ!?んな真似したら容赦しねぇからな!」


「どう容赦しないって?」


「いだ!いだだだだっ」




北上くんをからかっている人物は、谷口千景(たにぐちちかげ)くん。

華奢な体なのに黒帯持ちという強者。

いつもと変わらずじゃれる2人。彼女さんのことでもからかわれているんだろう。

今日も圧倒的に谷口くんが強い。


私を含めて周りの人達は、そんな2人の様子に笑っていた。

からかわれていじられて、それでも北上くんも最後は結局笑ってしまう。

それもいつものこと。


北上くんの作り出す空気は温かい。

本当に幸せな気持ちになれる。

だから、毎日毎日想いは重なって困るくらいなんだ。





真山陽菜(まやまひな)、17歳。

色んなことはあるけど、結局は北上くんが好きって気持ちにたどり着く。

そんな叶うわけのない片想いを続ける高校2年生です。






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