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 『大人になったら結婚しようね』

 柳瀬は五歳の頃、同じ幼稚園に通う早野と将来結婚する約束をした。二人の性格は正反対で、性別も違ったが、柳瀬と早野はいつも一緒にいて仲が良かった。この時の二人にとって、世界で唯一の関心事は互いの存在だけで、幼い少年少女の目に映る世界はだらしなく弛緩し、手の上で溶ける甘ったるいチョコレートのようなべたべたした柔らかさを感じさせるものだった。しかし、柳瀬は早野には好かれていたが、彼女の母親からは酷く嫌われていた。

 早野りつ子が柳瀬を嫌う理由は一つだけではないが、その中の一つとして、彼が心腐病の遺伝子を持っていることが挙げられる。どこで知り得たのか、彼女は柳瀬が心腐病の遺伝子を持っていることを知っていた。また、柳瀬の母は、りつ子が柳瀬に心腐病の遺伝子が遺伝していることを知られていることを知っていた。

『早野さんを好きになるのはやめなさい!』

 まだ六歳の頃、柳瀬は面と向かって母親にそう言われ、ぶたれ、初めて自分の置かれている状況を理解した。友達の母親たちが自分を見る目。近所の人の冷たい目。そして、りつ子のゴキブリの集団でも見ているかのような不快そうなさげすんだ目。

 そうか、僕は人を好きになっちゃいけないんだ。

 その時全てを理解し、柳瀬は泣いた。蜂に刺されそうになった時よりも、蛇に噛まれた時よりも、死に怯えていた時よりも強い恐怖、悲しみが彼を襲い、その日の夜、柳瀬は眠ることができなかった。

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