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大学生になっても、柳瀬は当たり前のように早野と連絡を取ろうとはしなかったし、もう会うことはないと思っていた。しかし、そうはならなかった。四月に入ってから二ヶ月も経たない内に、りつ子から電話がかかってきたのだ。
『娘に会ってほしいの』
衰弱しきったような声で、必死に訴えてくるりつ子の話を聞き、冗談だろと思いながらも、柳瀬が都内で有数の総合病院に入院しているという早野に会いに行ったのは今年の五月末。
『心腐病だそうです。もうどうしたら良いのか……』
医師に、大学生になったばかりの娘の命があと三ヶ月と宣告され、りつ子は絶望の真っ只中にいた。病室で泣き崩れ、それでも柳瀬に早野の病状を説明し続ける彼女は既に何かが壊れていたのかもしれない。
『もう何も喋ってくれないんです。挨拶もしなければ文句も言わない。どうしてこんなことに……』
柳瀬はりつ子の話に耳を傾けながら、薄く目を開き、黙って彼の顔を見つめ続ける早野を見ていた。見ながら彼は後悔の念に襲われていた。
あの時電話をしていれば……。
彼女は助かったかもしれない。こんなことにはならなかったのかもしれないと、柳瀬は思った。
心腐病を移されて死亡する者は後を絶たない。その中でも、被害に遭うのは若い女性が圧倒的に多い。
早野はまだ齢十八にも関わらず、都会で一人暮らしをしていた。時世を考えれば心腐病を移されたのは当然の結果と言えば当然なのだが、柳瀬もりつ子も彼女を責めることはしなかった。いや、できなかった。
『ちえはいつ、心腐病になったんですか?』
口にすることは躊躇われたが、早野から目を逸らすことなく、柳瀬は思い切って訊いてみた。
『早野さんは一週間ほど前です』
子どものように泣きじゃくるりつ子の代わりに、看護師の深澤が感情のこもっていない声で返答した。それを訊いて柳瀬は『ちえは虫じゃないんだぞ』と思ったが、決して自分が怒っている訳でもなく、悲しんでいる訳でもないことに気付き、戸惑いを覚えた。




