ストーカー撃墜大作戦! その3
ストーカーを待ち伏せて数日後、ルビアはいたって普通に一日を過ごしている。彼女自身、追われている気配はなかったらしい。やはり、街に住んでいる人間の仕業なのだろうか。
カトラルは今での結果から、そう考え始めていた。食材の購入は街でしか出来ない。今はルリミアルが代わりをしているが、ずっとこのままでは進展がない。
二・三日前、ストーカーが家を探り当てている可能性があるか、ルビアに尋ねた事がある。すると彼女は、自慢げにこう答えた。
『全て撒いてきましたよ。そういうのだけは、昔から得意なんです』
また、犯人の目星についても。
『私、思うに野菜店の近くに住んでいる方ではないでしょうか?あの店しか行きませんもの、街なんて』
という適当な解答。
見た目は可憐な花でも、根っ子はしっかりあるのだろう。なかなか気丈な女性だ。
ともかく。
それらの情報を頼りに動いてみるものの、双子の頭は横に動くばかり。やはり本人が街に行った方がいい、という結論に達した。
「必ず守ります!ルビアさん」
毎日一日中立ちっぱなしで、疲れているだろうに。しかし双子は文句の一つもなく、今日もストーカーを追う。
ここまでくると、もうお互い根気比べだった。イヤホン越しのカトラルの声も、疲労が滲み出ている。唯一ルリ姉さんは、買い出しのみの仕事でピンピンしていた。
次の日。
ルビアさんにとって、約二週間ぶりの街へ行く。彼女には気配を感じたら、押してもらうボタンを持たせた。双子も常に目を離さないように、怪しまれない程度の距離を持たせる。
「私はやる事ないわね」
と言ったルリ姉さんに、メルは、
「やる事?やる気じゃないの?」
と言われて頭を叩かれていた。
「では行ってまいります」
そんな彼女達を見ながら、ルビアさんは出て行った。
+ +
彼女には、いつも通りの行動をしてもらう。その少し後から、双子がテケテケとついて行く。カトラルは指示を出すために、家で待ってもらう事となった。
『怪しい人は?』
「いないよ」
このカトラルとメルの会話も、何回目か忘れるほどした。野菜店から出て用事が終わったのか、ルビアは家の方角へ歩いていく。
彼女が歩き始めて何十分か過ぎた時だった。
メルのイヤホンから、ピピピピッという機械音が聞こえてくる。これは…。
「カトラ兄さんっ!ルビアさんのボタンが押された」
メルが小さく、しかし切羽詰まった声で言った。イヤホンから、カトラルの声が聞こえてくる。
『周囲に怪しい奴は?壁の隅とかを見て』
その事に、近くにいたアルがいち早く反応した。パッと周りを見回してから、ちょんちょんとメルをつつく。
「何?」
苛立っているメルに、落ち着けと言いたげな顔をして、ある一方を指差した。レンガの壁の方に一人隠れるようにして、覗き見をしている人物がいる。
考えなくても、十分怪しい。
「見つけた…」
と、小さくメルがつぶやいた。
目が、獲物を狩るそれになっている。
『おい、メル?落ち着いて行』
カトラルの電話をブチリと切って、音もなく動き出す。アルはその場に残ったまま、呆れたようにため息をついた。
ー…、狩りが始まる。
犯人バレバレっすか?
あ、そうですか。いえいえ、スミマセンネ。