ストーカー撃墜大作戦! その1
あの、シャム猫を捕獲した日から数日が過った。結局あの日の夕食はグラタン。皆の予想斜め上を行く人、カトラル兄さんである。
話しを元に戻すとして。
その日、カトラルは家に居なかった。メルとアルの双子は、やる事もなく家でゴロゴロとしている。ルリ姉さんの方は、朝から部屋に引きこもって出てこなかった。
「つまんなーい!」
と、メルが叫ぶ。手足をバタバタと動かして、絶賛暇を持て余し中だった。アルの方は、一人黙ってヘッドホンから何かを聞いている。メルは、それが何を聞いているのか知らなかった。興味もないが。
「アールー!遊ぼうよ、ねぇ」
メルはアルの体を左右に揺らす。最初、アルは無反応だった。揺らされても無言だった。しかし、メルはしつこかった。何も言わないアルに、さっきよりも激しく揺らす。それで、アルは切れた。静かに、一人でプツンと切れた。
「…、黙れ」
ポツリ、と呟く声は明らかに苛立っている。メルは久しぶりに喋ったアルに驚いていた。アルの肩に手を置いたまま、カチンと硬直している。
その間に、アルはスケッチブックを取り出して、サラサラと文字を書いた。そこには、
『うるせぇよ、お前。静かにしてくれない?うぜー。まじウゼー。それに』
そこで切れている。メルは唖然としたまま、その紙とアルを見つめていた。アルは二枚目に移って、また文字を書き始める。それは、さっきの文の続きだった。
『それに、もうすぐ兄さん帰ってくるよ』
と。
「…。何で分かるのよ」
それを読んでから、メルが素直にしかし怪しむように尋ねた。それに対して、アルは当たり前という顔をして、フフンッと笑う。それから、
「俺兄さん至上主義だし」
とドヤ顔で答えた。その二つが、全く噛み合っていないという事を、メルは気付かない。顔を仄かに赤くさせて、今にもアルに飛びかかりそうだった。
「そういう時だけ話さないでよね!このブラコン!」
しかし、飛びかかる代りに暴言を吐いた。もちろん、アルには全く効いていなかったが。恐らく、ブラコンは彼にとって褒め言葉でしかない。再びスケッチブックに書かれた文字は、こうだった。
『いや、お前も十分ブラコンだろww』
「なんですってえぇぇ!」
メルが切れた。人外じみたスピードで、アルの顔面に蹴りを喰らわす。その際風の切れる音が、ヒュゴゥッと聞こえた。
ガァァンッ!
と、壁にぶつかる音がする。ただの壁ではない。鉄にぶつかったような音。そして、壁にぶつかったと言うことは。
「あぶっ!」
アルは、しっかりとそれを見切っていた。見切って、動き、逃げ切った。メルが舌打ちをする。隠そうともしないその行為に、アルは幻滅したように肩をくすめた。
「避けないでよ」
少しも痛そうな顔をせず、メルが喋る。アルは黙ったまま、顔を横に振った。いや、無理だし。と無言で語っている。
第二ラウンドが開始されそうになった、その時。
「アル、メル。ただいま」
喧嘩の大元になった人物が帰ってきた。
この家の家長にして、指令塔。
カトラル兄さんである。
少しでも、楽しんでいただけたら幸いです。