猫捕獲大戦作!
「アル!そっちよ!」
煉瓦の家が連なる町の路地裏で、一人の少女の声が響いた。ブロンドのショートヘアーの髪をした少女だ。一生懸命に走って、何かを追っているらしかった。
一方。
アル、と呼ばれた少年は黙ってうなずく。そして、そのまま両手をつき出して何かを抱えこんだ。しっかりとキヤッチされたソレは、腕の中でモゾモゾと動いている。
「捕まえた!?」
その少年の所に、少女が急いで走ってきた。二人は双子のようで、とてもよく顔が似ていた。ただ、アルの方は少し大きめのヘッドホンを付けていたが。中にいるソレを見てから、ポケットに手を突っ込む。すると、少し皺になった写真が出てきた。
「えっと…。うん。合ってるね。シャム猫のリリーちゃんか…」
腕の中にいるソレは、間違えるはずもなく猫だ。少し汚れた白い毛は、それでも上品さがある。
「ルリ姉さん、任務完了だよ!」
「はい、お疲れ様」
いつの間に、どこかから現れたのか。一人の女性が、少女の横に立っていた。大人の色気のある美しい女性だ。左手には、猫を入れるためのかごまで持っている。
「アルもメルも頑張ったわね。カトラルに連絡しておきなさいな」
「はーい」
少女の名前は、メルと言うらしい。彼女は耳についているイヤホンを少し弄った。電話機能が付いているようだ。アルも、その隣りで黙って立っている。
「あ、カトラ兄さん?任務完了でーす!ご褒美ちょーだいっ!」
喋り出したメルを、アルが羨ましそうに見ている。彼は先程から一言も発していなかった。
その間に、ルリ姉さんは猫を持ち主の所へ届ける。超人的な力でジャンプすると、軽々と家の屋根へ飛び乗った。双子はそれを見ていても、慣れているのか驚かない。
「でねー。メルがこうビュンッって走って!…」
メルにいたっては、今だに電話で話していた。イヤホンからは、優しげな青年の声が少し洩れている。五分ほどして、ルリ姉さんが封筒片手に戻ってきた。
「はいはい、メル。カトラルとの電話はお終い。お布施も持ったし、家に帰るよ?」
どう行ったのかは分からないが、ルリ姉さんは汗一つかかずに帰ってきた。メルはそんなルリ姉さんをチラリと見てから、はーい。と返事をする。
「じゃあ、またね!」
そう言って、電話を切った。
+ +
言わゆる、何でも屋をしている家族がいた。
猫の捕獲から、愛人のふりまで。法律に反しなければ、何でもやります!
がモットーの店だ。
家長はカトラル。作戦考案係り、兼指令塔。
次に、ルリミアル。三人組チームの真のリーダー。
ただし、少しさぼり癖がある。
そして、メルとアル。双子の二人が、実の行動班。
メルが、自称リーダーを言っている。
この四人は、実は血が繋がっていない。カトラルとルリミアルは、孤児院出だ。その二人が自立して働き、捨てられていた双子を拾った。
四人は確かに元は他人だった。
しかし、今はもう家族だ。
家に帰りながら、自称リーダーのメルが言う。
「今日の夕食はハンバーグかなぁ?」
「さぁね。カトラル次第よ」
それに対して、ルリ姉さんが答えた。少し楽しそうな、からかっているような声だった。
「ご褒美くれるって言ったもん!ねえ、アルはどう思う?ハンバーグだと思う?」
隣で、ヘッドホンで何か聞いているアルに向かって、メルが尋ねた。するとアルは、どこからかスケッチブックと紙を取り出し、サラサラと何かを書く。そこにはー…。
『知らねー。俺はカレーがいいし。風呂入りたいし。猫暴れて服汚れたし。キモイw』
と書かれていた。
メルがアルの頭を叩く。
いてっ!と言いそうで、アルは言わなかった。
後からスケッチブックに書かれる。
『いてっ!何すんだよメル!怪力女!』
「何ですってぇぇぇっ!」
双子が走る。
それを後ろからルリ姉さんが、微笑ましい光景でも見ているかのように笑っていた。
今日の任務
「脱走した飼い猫を捕獲せよ」