第七話
カラスはゆっくりと空から舞い降りてきて、ダリルの肩にちょこんと乗るとカァと一声鳴いた。人々は一層気味悪がり、ざわめきの波が揺れる。
「…ダリル、とか言いましたね。一つお聞きしてよろしいですか?」
ジョージは静かに口を開いた。ダリルはちらりとジョージに目をやる。
「何なりとどうぞ」
ダリルは大げさに深々とおじぎをした。
「国境の立て札の文字を消したのは、あなたですか?」
「ジョージ!」
ダリルが答える前に、エリーはジョージとダリルの間に飛び出した。
「お願い、何も聞かないで。ダリルは今からこの国を出ていくの。だから…見逃してあげて…」
エリーは馬上のジョージを見上げて懇願した。
「…エリー、君は何も知らずに彼を泊めただけだ。君達には何の罪もない」
ジョージは集まっている人々にも聞こえるように、そう言った。
「……」
魔法使いだと知っておきながらかくまえば、重い罪が科せられる。
「君達は何も知らなかったのだから」
「でも…でも、ダリルはサムを助けてくれた。ジョージ、あなたの病気だってダリルが治してくれたのよ」
「それは…魔法で治療するとは思わなかったから。エリー、この国で魔法を使えばどうなるか分かっているだろう」
「そんなこと分かってる!でも、ダリルは何も悪くないわ。何故咎められるの?魔法を使うことのどこが悪いの!?」
エリーはジョージに詰め寄った。
(エリー黙って!)
突然、エリーの心にダリルの声が響いた。エリーは、はっとしてダリルに目をやる。
(君の勇気には感謝するが、事が大きくなる。ここはジョージに従った方がいい)
(でも…)
エリーは心配気な眼差しをダリルに向ける。
(大丈夫。僕が偉大な魔法使いだと言うことをお忘れかい?)
ダリルはフッと笑い、目配せした。そして、ジョージの元に歩み寄った。
「確かに、立て札の文字を消したのは僕だ」
人々のざわめきが一層大きくなる。
「ここは騒がしい。話はゆっくりお城ですることにしよう。一度城の中に入ってみたかったのでね」
「…では、一緒に来ていただこうか」
ジョージ達一行は、ダリルを馬に乗せると、その手綱を引きながら静かに城に向かう。大きく膨れあがった人々の群は、遠巻きにその様子を見守った。
「ダリル!!」
サムは泣きながらダリル達の後を追った。
「サム!ダメよ!」
エリーは慌てて走り寄りサムの体を掴んだ。ダリルは振り返ると、サムに軽く手を振った。
(僕がいない間、カラス君の世話を頼むよ。その子猫もね)
カラスはダリルの肩から飛び立ち、一行を見送るように上空で旋回した。涙で泣き濡れたサムは、子猫をしっかり抱きしめてダリルの姿が見えなくなるまで立ちつくしていた。




