第四話
居酒屋のテーブルでダリルがミルクを飲み干した時、店の外で鋭いカラスの鳴き声が聞こえてきた。グラスを置くと、ダリルはスッと立ち上がった。
「どうしたの?」
尋常でないカラスの鳴き声を聞き、エリーが心配そうに厨房から出てきた。
「シッ…」
ダリルは口に人差し指をあてると、無言で外に出ていった。エリーも後に続く。
ダリルの姿を見つけたカラスは、急降下するとダリルの肩に着陸した。ダリルに話しかけるように小さく鳴き続けるカラスの声を、ダリルは一心に聞いていた。
「ねぇ、ダリル……」
潤んだエリーの瞳が、不安で一層潤む。
「馬を借りるよ。サムが川に落ちて流されているらしい」
「えっ?!…」
話す間も惜しんでダリルは馬小屋に急ぐ。驚きのあまり言葉を失ったエリーは、その場に立ちつくした。ほどなく馬に乗ったダリルがエリーの元に現れた。
「大丈夫、まだ間に合うさ」
ダリルはエリーに手を差し伸べた。
「おいで、サムは君を待っている」
泣き出しそうになる気持ちを抑えて、エリーはダリルの手に捕まり馬に乗った。
「急ごう、馬に速さの魔法をかけるから落とされないようにね」
ダリルは微笑むと手綱を引いた。魔法のかかった馬の足は、猛スピードを上げて走り出す。風景が、矢のように後ろに飛び去る。強い向い風を受けながら、エリーは必死の思いでダリルにしがみついていた。
「たすけて…」
泳ぎ疲れたサムは声も出なくなり、何度も溺れそうになる。サムの腕の中では子猫がか弱く鳴いていた。サムは子猫を沈めないよう、力を振り絞って片手で水をかいた。
「子供だ!子供が溺れている!」
川沿いの街頭では、川に流されているサムに気づいた人々が集まり始めていた。
「大変!沈みそうよ!」
「誰か助けてあげて!」
浮き沈みするサムの姿を見て人々は心配するが、流れの急な川に飛び込んで助ける勇気はなかった。川の流れは、大人でも飲み込んでしまいそうだ。
その時、街頭をお城の騎士達の一行が馬で歩いて来た。偶然の訪問に人々は歓声を上げる。
「子供が溺れている!助けてやってくれ!」
「お願いします!沈みかけているわ」
通りかかった人々は、騎士達の回りに詰めかけた。騎士達の中には、ジョージの姿もあった。
「サム?…」
川で溺れている子供がサムだと気づいたジョージは、一人馬を前に進めた。




