第二十三話
私にもきっと出来る。思いが強ければ、信じる力が大きければ、願いはきっと叶うはず…。ベッドに横たわったサムの手を、エリーは両手で包み込むように握った。
ダリルの力もリシリーの力も得られないのなら、自分が魔法を使うしかないとエリーは思った。成功する可能性が少ないとしても、今は自分を信じるしかない。
苦しそうに瞳を閉じているサムの手をそっと元に戻し、エリーは魔法の杖を手にした。目を瞑り、杖に神経を集中させて、静かに呪文を唱える。夕闇がせまり、薄暗くなり始めた部屋の中で、エリーは一心に呪文を唱えた。
サムの荒い息づかいだけが聞こえる静かな部屋。ベッドの傍らでは、カラスと子猫もじっとその様子を見守っていた。
(お父さん、お母さん、まだサムを連れて行かないで…神様、私に力を下さい)
エリーは心に強く願い、魔法の杖を握りしめた。
その頃城の牢の中で、ダリルは小さな窓から空を眺めていた。厚い雲に覆われた空に夜の闇が訪れようとしている。暗闇は、この国の未来を象徴しているようだ。
(偉大な魔法使いになる道は険しいな…一つの国を救う力も僕にはないのだろうか?)
ダリルは軽く息を吐き、懐の水晶球を取り出してみた。リシリーの魔法のバリアのために、何も映らなかった水晶球。もう一度、両手の手のひらに乗せて、じっと見つめる。透明な球は、白い霞がかかったようにぼやけて見えた。神経を集中させ、体中の「気」を集めて静かに呪文を唱える。一心に願いを込めて。
と、白く濁っていた水晶球が、霧が晴れてくるように透明になり始めてきた。
(リシリーの魔力が弱ったか?…)
ダリルは、さらに集中して呪文を唱え続けた。やがて、水晶球はある光景を鮮明に映しだしてきた。それを見て、ダリルは驚きの表情を表す。
(偉大な魔法使いになどなる必要はないのかもしれないな…強い願いがあれば、誰でも魔法使いになれるのかもしれない。彼女は、手ごわいライバルになりそうだ…)
ダリルは水晶球を見つめながら、微笑んだ。透明な水晶球の中には、魔法の杖を握りしめて一心に魔法を唱えるエリーの姿がはっきりと映っていた。
水晶球に映る光景を見つめながら、球を通して伝わってくるエリーの呪文に合わせて、ダリルも呪文を唱えた。見る見る水晶球は透明さを増し、光り輝いていく。ダリルはエリーに届くように水晶の中に念を込めて、呪文を唱え続けた。
いつも読んで下さってありがとうございます。ストーリーも大詰めです。ラストスパートします。(^^;)ちょっとずつしか書けなくてごめんなさい。m(_ _)m




