第十九話
朝が訪れた。夜明け前から小雨が降り続き、日が昇っても外は薄暗かった。エリーが目覚めた時、サムのベッドは空だった。いつもなら寝坊したエリーを起こしてくれるサムだが、今日は先に部屋を出たらしい。寝不足が続き、ぼんやりした頭で窓の外を見つめる。どんよりと曇った空は、エリーの心を写しているようだった。
(リシリー大臣が魔法使い…)
昨夜、ダリルから聞いた言葉が重くのしかかっていた。そして今日、そのリシリーと一人で会うことを考えると、不安は一層つのる。その時、窓の外からカラスの鳴き声が聞こえてきた。ベッドから起きあがり窓辺から覗いてみると、裏庭の木にカラスがとまっていた。カラスはエリーの姿を見つけると、カァカァと羽を広げて鳴いた。いつもより元気がないように感じる。エリーは窓を開け、雨に濡れたカラスを部屋に招き入れた。
「あなたは、ダリルじゃないわよね?…」
椅子の背に止まったカラスに、淡い期待をかけて問いかけてみるが、カラスはキョトンとした様子で首を傾げるだけだった。
(ダリルがカラスに変身出来ないのも、リシリー様の魔法のせいなのかな?…ダリルも太刀打ちできないような魔力が、リシリー様にはあるのかしら …その力を使ってこの国を支配しようとしているの?…)
良くない考えが次々浮かび、エリーの心は不安でいっぱいになる。その時、
「エリー!エリー!」
不安をもっと大きくさせるようなサムの大声が聞こえ、部屋のドアが勢いよく開いた。 サムは青ざめた泣きそうな顔をして、立ちつくしている。
「どうしたの?…」
「おばさんが、おばさんがたおれた!」
「!……」
エリーはサムと一緒に部屋を飛び出した。
叔母は叔父に抱えられて、部屋のベッドに寝かされていた。額に汗をかき、苦しそうにうなっている。
「流行りの病だ…もう何人も病気で倒れている」
叔父は心配そうな顔をして、側の椅子に腰を下ろした。エリーは冷やしたタオルを持って来て、優しく叔母の額を拭いた。
「もうダメだよ…薬なんて効かないんだから。苦しみぬいて皆死んでいくんだ…」
叔母はうつろな目をしてエリーを見つめた。エリーは微笑む。
「大丈夫よ。叔母さんは元気なんだから、すぐに良くなるわ」
「気休めなんていらないよ…自分のことは良く分かるんだから…5年前の流行病よりたちが悪そうだ…あの時は助かったけど、今度は…」
「今度は私の薬草があるから…きっとみんな助かるわ」
叔母は力無く首を振った。
「サム!…あっちにお行き。病気がうつるよ」
おびえた目をして側に突っ立っていたサムは、慌てて部屋を出ていった。
「あんたも、エリーも、出ていっておくれ…」
叔母はそれだけ言うと、苦しそうに目をつむった。
「……」
エリーの口元から笑みが消え、何も言うことが出来なかった。
(ダメ…みんなを救うわ。誰も死なせはしないから…)
エリーは叔母の手を握り、心に誓った。




