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第十六話

 その日の夜遅く。

 エリーは部屋の机の前に座り、魔法の杖を握りしめ目の前にあるティーカップを一心に見つめていた。神経を集中させて呪文を唱える。小さなランプの明かりが、ゆらゆらと揺れてティーカップの影を揺らしている。

 ティーカップは、じっと机の上に乗っていた。エリーは瞳を閉じると、もう一度呪文を唱え始めた。しばらくすると、カップがカタカタと小さく振動し始める。エリーは杖に集中して、なおも呪文を唱えた。と、カップが勢いよくサーッと動いた。エリーはすぐに別の呪文を唱えたが、勢いあまったカップはテーブルの端を飛び越え床に落下してしまった。ガチャンッという音とともに、カップは二つに割れた。

「ダメね。コントロール出来ない…」

 エリーは割れたカップを見つめて、ため息をついた。何度も何度も練習して、ようやく物の移動は出来るようになったが、まだ思うように動かすことが出来なかった。

 時計の針は午前一時を回っていた。 エリーは椅子から立ち上がる。

「ダリル、遅いわね」

 カラスはダリルを迎えに出向いていた。今夜もカラスと姿を交換したダリルが訪れるはずだが、なかなか帰って来なかった。

「もう一度やってみようかな。今度は壊れない物にするわ」

 エリーはティーカップの破片をそっと拾った。


 その頃、ダリルは城の牢でカラスの到着を待っていた。上を見上げて小さな窓を眺める。

(カラス君、遅いな…)

 もうそろそろ来ても良い頃だ。視線を落とすと、牢屋の前には牢屋番が一人ダリルに背を向けて見張っていた。牢屋番が見張るのは牢屋の前で、まさか小さな窓からダリルが出入り出来るとは思っていなかった。ダリルは牢屋番の方に近づいた。

「今夜は君一人かい?もう一人の番人はどうした?」

 突然ダリルに声をかけられ、牢屋番はビクリとして振り向いた。

「体調を崩してさっき帰って行った。…もうすぐ代わりの者が来るはずだ」

 牢屋番はダリルを見て警戒した。魔法使い相手に一人では心許ない。

「ふ〜ん…」

 ダリルは壁にもたれて腕組みした。

「たちの悪い病気が流行りはじめてきたな」

「もう休みなさい。罪人と口を聞くことは許されてない」

 牢屋番は内心の恐れを悟られないよう、口調を強めて言った。その様子を見てダリルはフッと笑うと、片隅のベッドに腰を下ろした。

 それからしばらくした頃。

(お前が待っているものは、今夜は来ない)

 突然、ダリルの心の中に強い声が響いてきた。牢屋の外に目を向けても、そこには牢屋番以外誰もいなかった。

(リシリーなのか?…カラスをどうした?)

 ダリルは心で問う。

(心配することはない。朝まで眠らせているだけだ。牢屋の窓から出入りされては困るからな)

 リシリーの静かな笑い声が心に響く。 

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