第十五話
城へと続く橋のたもとで、エリーはそわそわしながらジョージを待っていた。この前はサムのことやダリルのことで気が動転していて、何の抵抗もなくジョージと話せた。と言うより、状況が切羽詰まっていたから、躊躇している場合ではなかった。
だが、今はまた心が揺れている。
(落ち着いて、普通に話せばいいだけよ。何でもないことだわ)
エリーは自分に言い聞かせると、大きく深呼吸した。気持ちを落ち着かせたエリーだが、門から出てくるジョージの姿を見た時には、また心臓の鼓動が早くなっていた。
ジョージはためらいがちに、門から掘りに架かる橋を渡って歩いて来た。
「おはよう、ジョージ」
エリーは笑顔を作って話しかけた。
「仕事中呼び出してごめんなさい。あなたに少し聞きたいことがあるの」
「…ダリルを捕らえることになってしまってごめん。この国に魔法使いが来ることは許されないから…ダリルを助けたいけれど、僕の力ではどうすることも…」
「ジョージが謝ることはないわ。ダリルはこの国の法律を破ったんだもの…罰せられても仕方ないわ。私も何度もこの国を出るように勧めたのよ。なのに、全然出ていこうとしないんだから」
「…だけど…」
ジョージは、さばさばとしたエリーの口調に戸惑う。
「君は、ダリルがこのまま処刑されてもいいのかい?…」
「…処刑されるのは残酷だと思う。…でも、夕べ一晩よく考えたの。ダリルは良い人だったけど、やっぱり国の法律を破るのは良くないって。だから、ジョージが責任を感じることはないわ」
「……」
沈黙のままジョージに見つめられ、エリーの心臓は早鐘より早くうち続ける。
(どうしよう…こんな時心で会話が出来たらいいのに…でも、ジョージの気持ちも全然読めないし…)
エリーはゴクリとつばを飲み込む。
「…あ、あの、それで話なんだけど…一度、リシリー大臣に会わせていただくことは出来ないかしら?」
「…リシリー様に?」
ジョージはエリーの意外な質問に目を見張る。
「君が何故?」
「…あの、リリィがこの前相談に来たのよ、お城の騎士達の間で流行病にかかっている人が多いって、本当はダリルに治療してもらうつもりだったけど、今は出来ないから…私の薬草で治療出来ないかと思ったの。この前ジョージに作った薬草の煎じ薬より、もっと良い薬を作るから、そのことでリシリー様とお話がしたくて…ジョージから話してみてもらえないかしら?」
それだけ一気に話して、エリーは一息ついた。
「確かに、最近奇妙な病気が流行っているね。君の煎じ薬で治療出来るなら助かるよ」
「リシリー様は私と会って下さるかしら?」
「僕から話してみる」
「良かった」
エリーは、ほっと胸をなで下ろした。
「…僕はてっきり君がダリルを解放してくれるよう頼みに来たのかと思った…」
ジョージの真っ直ぐな眼差しに、エリーは罪悪感を覚える。
「本当は、ダリルが僕を治療したように、ダリルに治療してもらえたらいいのだけど」
「……」
(ジョージ、ごめんなさい…)
それ以上何も言えなくて、エリーは心の中で何度も謝った。




