第十三話
その頃、自分の姿に戻ったダリルは、狭く薄暗い牢屋の中にいた。壁の上に小さく開いた窓から、わずかな光りが注ぎ青空が覗いている。牢屋の前には二人の牢屋番が見張っている。昼間は窮屈な牢屋にいるしかないダリルは、壁に背をもたせかけてウトウトとまどろんでいた。
そこへ、コツコツと響く複数の足音が聞こえてきた。足音は段々と近くなり、牢屋の前で止まった。ダリルが眠い目を開けてみると、そこにはリシリー大臣とその後ろにジョージの姿があった。ジョージはばつの悪そうな、戸惑いの表情をしてダリルを見ている。
「昨夜はよく眠れたかね?」
ジョージとは対照的に、リシリーは堂々とした態度でダリルをじっと見ていた。
「…この堅いベッドでは快適な眠りは無理だが、充分体を休めることは出来た」
ダリルも負けずにリシリーを見返す。
「フム、なかなか度胸のある若者だ。魔法使いと言った方がいいかな?」
「どちらでも、お好きなように」
二人のピリピリした会話に冷や冷やしながら、ジョージは後ろで見守っていた。
「では、魔法使いダリル、二、三質問があるのだが宜しいかね?」
「何なりとどうぞ」
(聞き難いことなら、心で思うだけでいい)
ダリルはリシリーの冷ややかな目を見つめながら、心で言った。
「難しいことは聞かない。口で答えてもらえるかね?」
リシリーはダリルの声を無視して、ピシャリと言った。
「この国へ立ち寄ったのは何故かね?」
「僕は旅の途中の身。たまたまこの国にたどり着いたから、立ち寄ったまでだ」
「立ち寄るさい、立て札は見なかったのかな?君が魔法で消したという立て札だが」
リシリーは冷たい目をして、フッと笑った。
「もちろん目にしたが、ここを通らず遠回りするのは面倒だったからね。それにこの国には何か惹きつけられるものを感じた。多分、魔法を禁じているところだと思う」
そう言って、ダリルは微笑んだ。
「……」
ジョージは何か言いたげに身を乗り出すが、言葉は出てこなかった。
(ジョージ、君は心配しなくていい。これは僕一人の問題だ)
突然、心の中にダリルの声を聞いたジョージは驚いて目を見開いた。
(言いたいことは心で思えばいい。リシリーには聞こえないはずだ)
だが、ダリルは感じていた。リシリーは他人どおしの心の会話さえ分かっているのだと…。




