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唯一

掲載日:2026/02/22

短編です

 門をくぐって、すぐ、目の前には立派な寺がある。賽銭箱に5円玉を投げ込んで、手を合わせる。

「「知ってるか?二礼二拍手一礼は神社でお寺は手を叩かないんだぜ」」

 あいつの笑顔が浮かぶ。覚えてるよ。

 神様だか仏様だかに挨拶を済ませて、アイツの墓に向かう。

 いつも名前で呼んでたから、最初は墓の場所を見つけるのに苦労した。だって、苗字だけで墓石が並んでるなんて知らなかったからさ。

 でももう、何度も足を運んでるから、アイツがいる場所はわかってる。ほらな?ちゃんとたどり着けただろ?ちゃんと覚えてんだよ。

「よ。」

 墓石に右手を上げても、何も返っては来ないけど、なんとなくアイツも「よっ」って笑って返してきてそうな気がするんだ。俺の勝手な妄想かもしれないけど。

 水で墓石を洗って、お供え用の花を生けて、線香に火をつけ手を合わせる。線香の匂い、白檀が好きって、言ってたもんな。

 俺、お前との約束忘れてないよ。ちゃんと今の会社で頑張って、今度少し役職上げてもらうんだ。給料もアップする。辞めようか悩んでるときに、お前が“粘れ”って言ってくれたから、俺今日まで頑張れたんだよ。ありがとうな。

 お前は物知りで、いつも俺にいろんなことを教えてくれたよな。家電とか、なんか妙に詳しくて、パソコンフリーズしたときの俺の慌てようみても、バカにしないでしっかり教えてくれた。

 本当にアレは助かったよ。マジで感謝してる。

 あと、家事もちゃんとやれって言ってくれたよな。一人暮らししてもほとんどコンビニ飯だったけど、お前が教えてくれたから、今でも簡単な飯なら自分で作れるようになったよ。お前との約束だもんな。

 あとさ、そのおかげか、痩せたんだよ。あの時からマイナス10kg。見た目もめっちゃ変わったんだぜ?会社の女性陣からモテて困っちゃうよ~。まぁ、イケメン過ぎて困ることって、ほとんどないよなwwwお前、めっちゃモテてたもんな。

 まぁ、お前マジで一途だったから、あの子しか見てなかったけどさ。

 お前が最期に病院で俺に言った約束は、ほとんど忘れてないよ。でもさ、一つだけ、どうしても一つだけ、俺には叶えられない約束があったんだ。

 お前から聞いた時も言ったと思うけど、俺には無理だ。絶対に叶えられない。それだけは謝っとく。

 あの子はさ、お前が良かったんだよ。お前は気づいてなかったかもしれないけど。たとえお前が病気の身でも、添い遂げる覚悟があったんだよ。

 お前がどんなに、あの子を突き離そうとしても、あの子、毎日のように会いに来てただろ?そんなあの子に、お前の代わりとして俺が傍にいることは、絶対にできない。

 お前じゃないと、あの子を幸せにはできなかったんだよ。

 だからごめん、お前との約束、これだけは叶えられない。悪いけど、それだけは謝る。

 胸のナカがもやもやとする。でも、本当の事だから。

 顔を上げると、線香の煙がゆるゆると揺れていた。風に木々が少し揺られ、日が差してきた。



——それだけが——

魚の小骨みたい

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