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獲物を見せた時

 モンスターを倒した俺は、その皮膜を切り取って回収した。

 ナイトキングの皮膜は薄くて丈夫なので需要が多い。依頼ではないが、これを買い取ってもらえばいい値がつくはずだ。狩ったことはないけれど、調べることは長年してたから知っている。


 さて、それじゃあマイリントの町に戻ろうか、と思ったところで、ふと気になって時間を確認すると――。


「やっぱり……30分くらいしか経ってない」


 7日ぶりの睡眠だったというのに、眠りに落ちてから目を覚ますまでほんの少しの時間しか経ってない。それでも完全に体調は回復している。

 思った通り。睡眠の効果が強化されるというなら、より短い時間で疲れが取れるはずだと予想していたが、その通りの結果だ。


 山の中で無防備にも眠ったのは、これを期待していたからだった。夜の山で長時間眠るのはもちろん危険だが、短時間の睡眠でいいなら、へろへろの状態で下山するよりはむしろ寝たほうが安全だと考えた。そしてその予測は正解だった。


 すべてが噛み合った、我慢したおかげで。

 



 町に戻り、久しぶりに心穏やかに過ごして翌日の朝、俺はギルドに向かった。


「買取頼む」

「あ、カイトさん…………ってこれ!? ナイトキングの皮膜!?」


 べろんとしたコウモリの翼の皮を触りながら驚くパレット。

 俺は少し得意げに。


「ああ、そうだ。倒して持ってきた」

「うそ、モンスター倒すの無理なはずでしょカイトさんって」

「ま、色々あってねー。まあ俺も26だし? そろそろ本気出しときますかってね?」

「え、なんかちょっとウザキャラになってる。でも、たしかに本物だねこの皮膜」

「ああ、間違いなくそうだ、襲ってきたそいつを倒して手に入れたんだから間違いない」


 買取金額は銀貨1枚だった。

 これは銅貨12枚分にあたいする。

 銅貨1枚で飯処で一食食えるので、12食分の食費を俺は一気に手にしてしまった。


 指でつまんだ銀貨の輝きに見とれていると、ギルドのドアが開いた。


「お? カイトじゃないか、まだギルドにいたのか」と憎まれ口を叩きながら入ってきたのは、深緑のローブを着たグリムだ。今日は一人らしい。


「当然いるに決まってる。お前もいたんだな、グリム」

「俺こそいるに決まってるだろ。ん? それはなんだ? モンスターの……コウモリのヤツか? どうしたんだ、こんなもん」

「カイトさんが持ってきたんだよ、買い取ってくれって! びっくり!」


 パレットの言葉を聞くと、グリムは眉間にシワを寄せる。


「なんだって? カイトが? おいおい、無職がモンスター狩れるわけがないだろう。騙されてんぜ職員さんよお」

「不思議だけど、実際にモノがあるんだもん。これは間違いなくナイトキングの皮膜だよ、ギルドの受付嬢の首にかけてホンモノ」


 受付のカウンターに肘を立てて、皮膜と俺の間で視線を動かすグリムは納得していないようだ。


「どんな手を使ったんだ? 誰かから譲ってもらったか?」

「その態度じゃあ、教えられないなあ。どうしても聞きたいなら、それなりの態度を示してくれたら教えてやるけど」

「はあ!? 調子こいてんじゃねえぞおっさん! ふん、まあどうでもいいさ所詮雑魚モンスターだしな。あんたは雑魚を倒してりゃいい、俺はC級パーティと合流してアンフィル迷宮をでもっと稼いでくるから。じゃあな」


 グリムは長髪の青髪をかきあげながら出ていった。

 俺はパレットに目線を向ける。


「……あいつ何しにきたんだ?」

「さあ、元の用事忘れるほどカイトさんのことで驚いたんじゃない? あいつ結構カイトさんのこと気にしてるし」


 なんでか突っかかってくるんだよな、グリムって。雑魚だと思うならいちいち気にしなきゃいいのに。わからないやつだ。

 ま、今の俺にはどうでもいいけどな、それよりも、だ。


「じゃあ俺も行くわ! また何か持ってくる! じゃあな!」

「あ、うん。またどうぞ……ってあー! 結局カイトさんに何があったのか聞いてないんだけどー!!」


 背後からパレットの声を聞きつつ、俺はギルドをあとにした。




 銀貨を手に入れて、これでしばらくは飯の心配はいらなくなった。


「が、そもそもこの銀貨を使う必要もないんだよな」


 だって、食ったらもったいない。

 我慢すればまた大幅に成長できるんだ、だったら一度と言わずもう一度我慢するのが当然。ってことは食費もいらない。

 我慢の職業って経済的でもあるんだねってことで。


「こいつは記念に取っておこう。俺が初めてモンスターを狩って稼いだ金だからな」


 そう、俺はモンスターを倒すことができた。

 だが、だからといって調子に乗るにはまだ早い。

 ナイトキングは俺にとっては強敵だったが、世の中の冒険者にとっては、ありふれたモンスターにすぎない。

 あれに勝てたからといって、冒険者として悠々活動できるってわけじゃない。


「だからもう一度我慢する。飯も、睡眠も。そうしてもう一段階強くなる」


 さあ、今日からまた我慢する仕事が始まるぞ!




 1週間後――。


「ひゅー……ひゅーっ……」


 俺は、南の街道沿いの草むらにうずくまり、膝を抱えて苦しみの只中にいた。

 二度目なら慣れるかと思ったけど、そんなことはまったくない。

 普通に腹も頭も痛くてグロテスクな幻覚とシンバルを頭の中で鳴らされてるみたいな気が狂いそうな幻聴に苦しんでいる。

 

 はやく……解放してくれ……この地獄から………………。

 まじで一歩間違えたら……逝くぞこれ…………。


『摂食遮断の深度が深まりました。:深度4』

『睡眠遮断の深度が深まりました。:深度4』


「き……ようやくきたぁぁぁ……」


 前の時と同じように、ゆっくりと食事を取り、その勢いで眠りにつく。 


『摂食解放:深度4。栄養効果極大増加。特殊食材効果極大増加』

『睡眠解放:深度4。体調全回復。免疫極大強化、全傷病治癒。学習成果極大増加(限界突破)、身体成長極大増加(限界突破)』


 目が覚めると、しっかり解放されていた。

 感じる……感じるぞ、これまで以上の力を。今回も、前と同じように圧倒的成長を実感できる。


「せえの……はっ!」


 思いっきり草原を駆けると、足元の草が風で激しく揺れる。

 ちょうど街道を馬が走ってきたのでよーい、ドンで走ってみると、しばらくの間並走することまでできた。


 間違いなくめちゃくちゃ速くなっている。身体能力の成長は著しい。

 そして、トレーニングだけじゃなく剣技の鍛錬もしていたので、同じくらい剣の腕前も一気に成長できたはずだ。


「いける……いけるぞ!」


 今の俺なら、そこそこの魔物くらいなら退けられる!

 討伐依頼を受けるべき時が来たんだ!



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