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レベル4

 眠らず食わずを始めて7日目。

 受けた依頼は奇遇なことに陽光草の採取だった。

 西の山に行くが、登っていくだけでもとんでもなくキツい。多分、赤ちゃんが初めて歩く時ってこれくらい苦労してるんだろうな、と木につかまりながら進んで行きつつ考えていた。


「うっ……」


 体力を使いすぎたか、吐き気が込み上げてくる。  

 だが何も出てこないのは不幸中の幸い、いや不幸中の不幸かな。


「はぁ、はぁ……なんとか……登った……け、ど……」


 すでに空が真っ赤になっているし、体力も使い果たしてしまった。

 今から陽光草を探す? 冗談じゃない。頭が叩かれたドラみたいに痛くて耳の奥で音が鳴り響いてるのに。

 じゃあ下山する? そんな体力残ってるわけがない。


 かなりやらかした気配がする。進むことも戻ることもできなくなった。

 たしかに眠っても食べてもいないことは事実だ、それについては山に登ったおかげで乗り越えられた。こうしなきゃ我慢しきれなかっただろう。


 だが今、山の上でどうしようもない状態になっている。

 夜になれば夜行性のモンスターが弱った俺を狙ってくる。この山は昼間は普通の動物しかいないから採取によく来るが、夜になるとモンスターが活動開始するので危険になる。

 弱った生き物は真っ先に狙われる。

 まさに今の俺みたいに。


 我慢しすぎて逝ったら、元も子もない、だがそれでも俺はこれに賭けたかったんだ。

 だからもう少し……もう少しだけ……。


『摂食遮断の深度が深まりました。:深度4』

『睡眠遮断の深度が深まりました。:深度4』


「………………え?」


 深度4、来たのか?

 幻覚じゃないよな、幻聴じゃないよな。

 間違いなく、これまで見た文章と同じだよな。


「……はは、ようやく……ようやくか」


 長かった。深度3になったのが4日めで、そこから3日かかった。しかも一番キツいところが一番長くかかるとか、ひどいなこれ。我慢が試されすぎている。


「だが俺は耐えた…………ぞ……」


 叫びたいところだが喉が痙攣してそんな声すら上げられない。でもそれももう終わりだ、ここで我慢を解放する。

 そうすればこのまま山の中で終わる人生も回避できる。


「こいつを使う……時が来たな……! はは、目の毒だ……本当」


 俺は荷物袋から、包み紙を取り出した。何重にも包んであるそれを震える手でほどくと、干し肉と干しブドウが出てくる。

 非常食として、出歩く時は持ち歩いてるものだ。誘惑に負けないように、今は紙で包みまくって紐で固く縛ってたけど。


 俺はまず、干し肉を、一切れだけ口に含んだ。


「あ……ああ……あああああ!!!」


 なんだこの幸福感は!?

 舌に触れた瞬間、世界中の色が一段階明るくなった。頭の中でバチバチ火花が飛び散ってる。俗に言う脳内麻薬スパークってやつなのか!?


「はあ……はあ……だが我慢だ。ここまで来てミスるな」


 口の中で十分細かくなり、柔らかくなるまで噛み続ける。突然硬いものをいきなり胃に入れるのはよくないからな、一気に食いたい衝動をなんとか抑えて、ゆっくりと食べていく。

 ようやく飲み込んだ時も、口に入れた瞬間と同等かそれ以上に幸せになれた。


 干しブドウも同じようにじっくり時間をかけて食べていく。なんて甘さだ、脳に響いてきやがる。これまでに食ったどんなものよりうまく感じる。

 空腹が最高のスパイスなら、俺はこの世のどんな富豪よりもウマい飯を今この瞬間は食えてるな。


 じっくりと時間をかけて食べ終わると、今度は急速に眠気が来た。 

 食べたら眠くなる、しかもそれが7日ぶりの食事なら7倍眠くなろうというものだ。


「だがもう俺の睡眠を阻むものはない。いやむしろ、ここで寝るべきだ」


 空は夕暮れから暗くなっている。

 俺は木の幹にもたれて、ようやく目を閉じることができた。そして人生で一番安らかな眠りに落ちていった――。




『摂食解放:深度4。栄養効果極大増加。特殊食材効果極大増加。変異「鉄の胃袋」』

『睡眠解放:深度4。体調全回復。免疫極大強化、全傷病治癒。学習成果極大増加(限界突破)、身体成長極大増加(限界突破)、変異「睡眠貯蓄」』


「嘘だろ!? なんだこれ!?」


 叫びながら俺は目を覚ました。

 眠っているときに見え聞こえた文字は我慢が解放された効果を表していた。正直文字が多すぎて眠りながらでは理解できなかったが、その文字が見えた瞬間、もはや寝転んでいられないほど体が熱くなってきたんだ。


 そして目が覚めたのだが、今も体が熱い――心臓で燃料が燃えているようで、じっとしてられない。


 ググ……タンッ。


「うお、なんだこのジャンプ力!?」


 抑えきれないパワーを足に込めると、俺の身長より高いところにある木の枝まで飛び乗ることができた。とんでもない脚力になってるじゃないか、本当に俺の体か?


 これがさっき見えた、睡眠解放で体が成長した効果か。深度1とは桁違いの効果だな。

 それに、おそらく摂食解放の栄養効果極大増加も合わさった結果だ。肉は筋肉の源だ。干し肉が持つその効果が摂食解放で極大増加、とてつもなく上がり、それがらに睡眠の身体成長極大増加によって倍率ドン! 

 それによって俺のフィジカルは凄まじい成長を遂げた。


「キシャアアアアア!!!」


 その時、暗い木の葉の陰から引っかき傷のような鳴き声が聞こえた。

 木の枝に俺とは逆向きにぶら下がっていたのは「ナイトキング」人間並みに巨大なコウモリの魔物だった。


 こいつだ、こいつが怖くて普段は夜の山には入らないんだ。

 夜でも正確にこちらの位置を把握し、素早く滑空し爪で引き裂き、牙で血を吸ってくる危険な魔獣。以前の俺なら出会ったら確実に狩られていただろう。


 でも、今なら。


 俺は木の枝から飛び降り、剣を握った。

 それは不思議に思うほど手に馴染んだ。もうこの剣で何百体もモンスターを倒してきたかのような、そんな感覚がして、俺はいつもモンスターを倒していた時の通りに構え、敵を見据える。


 ――飛んだな。


 木の枝からナイトキングが飛び立ち、空を切る音とともに俺に向かってくる。

 俺は素早いその動きを正確に捉え、落ち着いて、爪を見切りながら逆袈裟に切り上げた。


「キィィィィィ!!!!!」


 緑色の血が吹き出しながら、翼を切られたナイトキングは勢いよく地面に血の引きずり跡を残していく。


 俺の体は自然に次の動きをとっていた。

 一の太刀で切ったあとは滑らかに振り向きながら、ナイトキングが地面に倒れているところに跳び、その急所に精確に上から剣を突き刺し、


「キッ!」


 確実にナイトキングにトドメを刺した。


 俺は自分でも信じられない気持ちで今しがたモンスターを倒した剣を見た。


「まじで学習してるじゃねえか。指南書見ながらやった鍛錬、実戦でも練習通り、いや練習した時以上の完璧さと力強さで剣を扱えた」


『栄養効果極大増加』  

『学習成果極大増加(限界突破)、身体成長極大増加(限界突破)』


 ――我慢してよかった。

 

 職業「我慢」の効果、誇張ではなく「極大」だ。

 


よければブクマや評価してもらえると激しく嬉しいです(ΦωΦ)

読んでくれてありがとうございました。

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