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睡魔解放

 驚くほどすっきりした目覚めだった。

 起きた瞬間から頭はすっきりしていて、視界もクリア。目をこする必要なんてゼロだ。


 こんなに気持ちいい朝は一年に一回あるかないかだな…………朝?


 そう、朝だ。

 かなり深夜まで起きていた上に疲れていたから、目が冷めたらもう昼頃になっているかと思ったけれど、窓を開けて空を見るとまだ太陽は東の空低くにある。


「ほんの2,3時間くらいしか寝てないのか? それなのにものすごく快眠した気分だ。……ってことは、あの職業の効果!」


 夢うつつだったが、目が覚める前に暗闇の中に、


『睡魔解放:深度1 回復力アップ、免疫力アップ、記憶定着強化、肉体成長強化』

 

 という文字が浮かぶ夢を見た記憶がある。

 薬草を使ったときと同じということか。あの時も短時間で大量に回復した。

 今回は短時間でたっぷり寝たのと同じようになった。

 さらに……


「『回復力アップ、免疫力アップ、記憶定着強化、肉体成長強化』か」

 

 寝たら体力が回復するのは当然、それが強化された。だから最高にすっきり爽やか寝起きから万全な目覚めだ。

 次が免疫力アップか……睡眠不足だと風邪とかひきやすくなるって聞いたことあるな。つまりいい睡眠で病気になりにくくなると。悪くない効果だ。


 そして残りの2つ「記憶定着強化」と「肉体成長強化」。

 眠ってる間に、昼間に勉強したことや運動したことの効果が出て人は成長するって話を聞いたことがある。パレットも冒険者は強くなるなら寝なきゃダメだよとか講釈していた。その成長度がアップするってことのようだな。


 つまり、眠りの中で見えたあの文章は、まさに睡眠の効能を強化した、ということを表していたわけだ。思った通りだ、怪我の回復に限らず、我慢をするとそこから解放された時に、我慢していたことが強化される。

 これが俺の職業「我慢」の能力だとはっきりしたな。


「ところで肉体成長強化と言ってはいるが、どれくらい肉体が強化されたんだ?」


 試しに剣を手に持って振ってみる。


 ヒュオッ!


「軽い! …………気がする」


 昨日までより剣が軽く感じる。

 思い込み……ではないと思いたい。ああ、軽い。そして振りが速くなってる。はず。


 記憶は昨日特に暗記することもなかったから違いがわからないが、他のことがちゃんと機能してるなら、記憶もだろう。


「でも……正直に言う。ちょっと物足りない」


 昨日、崖から落ちて瀕死の時は陽光草という薬草を服用した瞬間、傷がみるみるうちに治って即座に全回復した上にもとよりタフになった。

 あれを経験してしまうと、ちょっと筋力ついたかな程度では刺激が足りないよなあ?


「あー……ひょっとして、我慢が足りなかったのか?」 


『睡魔解放:()()1()


 って見えたんだよな。

 1と言うからには2があるはずだ。3とか4とかもあってもおかしかない。

 寝る前にも『睡魔遮断が深まりました:深度1』って見えた。

 効果をすぐに確かめたたくてさっさと寝ちまったが、あそこで眠らずにいれば深度2、深度3となったんじゃないか?


 そうだな……次はもっと長い時間で試してみるか。


 もちろん、ただぼーっとしてるのは時間がもったいない。寝るのを我慢してる間、いつも通りギルドへの納品を行うつもりだ。


 てなわけで、俺はいつもの西の山へ月光草を取りに行った。

 陽光草はレアだし崖に生えるしでなかなか取れないわけだが、月光草は岩の陰とか木の洞の中とか薄暗いところにいけば結構見つかるんで、むしろこの月光草を探しにくる時の方が多いんで手慣れたものだ。


 ただ薬草としての効果も買取価格も月光草は陽光草よりずっと低いんで、おいしくはない。でも職業のない俺は、モンスターとの戦闘になるところには行けないんで、こういうもので細々と食いつなぐしかない。


 ――のはもう過去の話。

 これからは職業の力で変えていける、絶対に。きっと。多分。




 マイリント西の山で朝から夕まで探索した結果、銅貨3枚分くらいの月光草を採取することができた。これでとりあえず1日分食いつなげるくらいの稼ぎになる。

 普段なら、山で見つけた果物なんかを食って飯代節約するんだが、今日は食えない。食えないってなると食いたくなるのが人間だが、そう、我慢だ。 


 そこから山を降り、マイリントの町に戻るともう日はすっかり暮れていた。

 とりあえずは今日すぐにギルドにいって月光草を買い取ってもらう必要はない。さすがに多少の貯金はあるからな、26歳の計画性を舐めるなよ。2週間は食ってける。


 ってわけでギルドによらず家に戻ったんだが……。


「まだ、食事を我慢してることについて何もないのか?」


 もう飯抜きにしてから結構な時間経ってるぞ。

 昼間も腹が鳴ってしかたなかったのに、職業「我慢」の声は聞こえない。まだダメなのか?

 それとも食事自体がだめだったりするのか、筋力のトレーニングで我慢が発動しなかったみたいに。


 わからない。

 わからないからには、確認するためにもっと我慢してみるしかない。

 そう思ってから一時間ほどが経過したときだった。

 

『摂食遮断が深まりました:深度1』


 頭の中に音が響き、視界の中に文が浮かんだ。


 きた!

 昨日の深夜に睡魔で見たのと同じだ、『深まりました:深度1』

 やっぱり食べることも我慢できる。単に我慢が足りてなかっただけだな。


「今の時間はおおよそ19時くらい……昨晩の夕食から食事をとらないようにしたから……だいたい一日食事を我慢したら、我慢が深まるって感じかな。


 一食程度ではダメだったということか。

 わかったよ、今度は慌てずいこうじゃないか。

 睡眠は焦って深度1で眠ってしまったが、今回は我慢がもっと深まるか、深まるならどれくらいの時間が必要で、どれくらいの効果になるかを見ていこう。

 そのためには、今晩もしばらく食わず眠らずを維持していく。


 その間は鍛錬を行う。


 これは時間がもったいないからってだけじゃなく、なにかしてないと耐えるのがより辛くなるからだ。

 じっとしてれば、眠気や食い気に気分が向いて辛くなる。我慢のコツは頭の中を他の何かでいっぱいにすること。ガキの頃にそうやって乗り越えることを学んだ。

 

 今のところ確実にわかっているのは、睡眠を我慢して解放すれば、起きてる時の勉強やトレーニングの効果が増すってことだ。

 ならば、起きてる間にできる限り頭なり体なりを使うのがいい。


 俺は剣を手に取り、部屋を出て町の南の平原へといった。

 そこで剣の型を何度も繰り返し練習していく。

 縦切り、袈裟斬り、横斬り。突き、鍔迫り合い、パリィ。

 少ない報酬をもやし生活で貯金して昔買った、職業「剣聖」の冒険者が書いた剣術指南書、それを見ながら練習する。


 これで練習しても、当時は結局は意味がなかった。

 似たような動きはできても、スピード、パワー、精密性、どれも職業の力なしじゃ、モンスターと戦えるようなレベルには到達できない。

 指南書にはこれらを練習することで、体力を消耗する代わりに一時的に鋭く素早い斬撃が放てる、魔法でもパリィできる、などの技も使えるようになるとも書いてあったけれど、当然それもできず。


 これは戦闘系の職業を持っていること前提の書物だった。

 わざわざそんなことは書いてないけど、職業もないのに剣の訓練するやつなんていないだろ、って著者も俺以外の読者も暗黙の了解だったわけだ。知らぬは俺ばかり、と。

 

「だが! ついに! 俺がこの本を本当に読める時がきたのだ!」


 まあ「我慢」が戦闘向き職業なのかどうかは諸説あるが、とりあえずやってみないことにはわからない。

 俺は星明かりの下でひたすら剣を振り続けた。


 真夜中には『睡魔遮断が深まりました:深度1』と文字が浮かび上がってきた。

 再現性も確認。寝なければいつでも何回でも、効果をブーストできるってことだ。


 こっちも今回はいけるところまでいくつもりだ。 

 もちろん今日は眠らない。食いもしない。

 いや、今日だけじゃない、明日だって明後日だって続けるつもりだ。


 決意の俺はひたすら剣を振り書を読み続け――そして、夜が明けた。

 


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