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防御捨去

 俺達は谷底を南へと歩き出した。

 南からまわって西へと行ければいいのだが、向こう側まで繋がっているかはわからない。とにかく信じて進むしかないな。


 ざく、ざく、と足音が一歩ごとに鳴っていく。

 河原にある手頃なサイズで丸っこい石が地面に敷き詰められたようになっている。昔はここは河が流れていたのだろうか。


「谷だもんなあ」

「谷ですよねえ」


 俺の独り言にエリアものんびりと返事を返した。

 今のところモンスターもいないし、ひたすら平坦でうねった道を歩いてるだけだし、のんきになるのも仕方がないところだ。


「ところでエリアはヒーラーなのに一人でやってたのか?」

「元々は一緒に討伐に参加する予定の人がいたのですが、もっと割の良い依頼があると言って来なくて……それで、即席でヒーラーがほしいと言っていた他の参加者の方と行動をともにしていたのですが、しかし強力なモンスターに襲われて散り散りになってしまったのです。そして彷徨ってるうちに、崩落に巻き込まれ……というわけです」

「なるほど」

「カイトさんも一人でしたよね」

「俺は剣で戦うから一人でもいけるしな。それに、最近になって初めてモンスターと戦うようになったから固定のパーティもない」

「そうだったのですね。お互い一人同士、仲良くしてください」


 穏やかな笑みを浮かべるエリア。

 こうしてみると、緊急事態以外ではのんびりした子なのかもしれないな。


「ああ、協力して窮地をしのごう……って噂をすればだ」


 俺達の前方の崖に張り付いていた植物が、地面に降りてきた。


「デビルプラントですね!」

「ああ。谷底にも上と同じモンスターがいるんだな。あいつなら上で何匹も倒してきた、けど念の為回復準備はしててくれ」

「はい!」


 俺はデビルプラントへと一気に走って近づいていく。もう何回も戦って手の内はわかっている、だから腕の蔓を切っ……


「うっ、これは!」


 俺は腕を止めて後ろに逃げた。

 その際に蔓に手を撃たれて赤く腫れてしまう。


「大丈夫ですか!? カイトさん!」

「大丈夫、ダメージはたいしたことない。それよりも問題は」


 ボロボロになった革の胸当てが破れ、繊維がぷらぷらと揺れていた。

 それが腕にまとわりつき、剣をふる邪魔になってしまったのだ。


 さっき落ちた時にぶっ壊れちまったか、これじゃ防御の役に立つどころか戦闘の邪魔だな。俺は胸当てを脱ぎ捨てて再び戦闘態勢に入る。

 大丈夫だ、さっきの戦いでも胸に攻撃は受けていないのだから。


「あらためて……いくぞ!」


 俺は仕切り直してデビルプラントに切りかかった。

  



「ふう、ちょっとアクシデントはあったけど問題なく勝てたな」

「お疲れ様です、危なげない勝利でしたね」

「何匹も同じモンスター倒したばっかりだからな。やり方は覚えてた」

「胸当ては――」

「ダメだなこれは、まあこのデビルプラントとかと同じように、上にいたモンスターならなくても問題なくやれる。いこう、暗くなってきた」


 俺達はさらに進んでいく。

 それからもデビルプラントやデスモスなどたしかに上で見たモンスターが出てきた。谷底までいるなんて本当に大量発生してるんだな、と思いつつ進んでいたが、さすがにかなり遅くなってきた。


「だいぶ暗くなってきましたね」

「ああ。無理やりすすむのは危険かもな。早く戻りたいとこだけど、慌てず野営した方が安全――か」


『防具捨去:深度が上がりました:深度1』


「なに!?」

「えっ? どうかしました?」


 思わず声をあげてしまった俺に対して、エリアが驚いた声をあげる。「いや、なんでもない」と誤魔化しつつ俺は浮き上がっている文字に目を向けた。


 『防具捨去』だと?

 これまで見たことのない文だ。しかしこの書き方は、我慢が深まった時のものに間違いない。


 名前から判断すると……防具を装備していないから、か?

 しかし日常生活では防具を着てないのにこんなものは出ていなかった。

 ということは……防具無しで戦闘を行ったことがトリガーか?


 それっぽいな、防具無しで日常生活を送るのは我慢でもなんでもないもんな、戦いを防具なしで行うのが我慢ってもんだ。

 革鎧を捨て去って、谷底で何戦かしたことで深度が深まったってことか。


 こんなものまで我慢の対象になるなんて想定外だな、どうするよ。


 ……どうするもこうするもないか、これで成長できるなら我慢する以外の選択肢はない。防具無しで戦い続ける。

 そうすれば解放した時…………これまでのパターンからすると、防具の効果が上昇するはず。最強の防御力を俺は手にすることができるんだ。


 そのためにしばらくは防具無し生活だな。普段着で討伐していこう。


「あの、カイトさん?」

「あ! 悪い悪い、ちょっと考え事を」

「ふふっ、すごく眉間にシワよってましたよ。それじゃ野営の準備しましょう」


 エリアは手際よく火を起こし、鍋を火にかけお湯を沸かした。

 そこにハーブを入れると、いい匂いが昇ってくる。


「手早くやるもんだな」

「これくらいはできないと、申し訳ありませんから」

「申し訳ない? 何が?」

「ヒーラーって、あまり出番がないじゃないですか。他の方が活躍してればしてるほど」

「まあ、ダメージを負わなければそうだな」

「みなさんが見事に敵を倒してるのに、私は後ろで様子を見てるだけだと申し訳なくて……だから、せめてこういうことはやれるようにしようと。……はい、どうぞ」


 ハーブティーを淹れたコップをエリアは俺に渡してくれた。


「そんなこと気にしなくていいんじゃないか。だって、ピンチの時には大活躍するんだろう? 命を救うような」

「そうなのですが……」

「俺がお前らの命を握ってるんだぞひれ伏せ! ってくらいにふんぞり返ってればいいんだよ。少なくとも俺に対してはそうしても文句いわない」

「そんなの無理ですよ私には、絶対! 性格的に!」


 まあそうだろうなあ……どう見ても想像できない、エリアがそんなことしてるの。


「でも、そう言っていただいてありがとうございます。カイトさんといると気が楽になります。さ、夕食にしましょう」


 焚き火のそばで温めたパンを俺に手渡してくる。

 だが俺は――。


「どうしたのですか?」

「いや…………実はエリアに会う直前にちょうどたらふく食ってたんだよ。だからまだ腹減ってないんだ」

「そうだったんですか」

「ああ…………そうだ、夜の見張りは俺が最初にやっていいか、見張ってるうちに腹も減ってくるだろうから、そこで食えばちょうどいいし」

「わかりました、では申し訳ありませんが、最初の見張りはお願いしますね」

「ああ、任せてくれ。寝ずの番には自信があるんだ」

「なんですかその寝ない自慢みたいなの。神学校の友達思い出しましたっ」


 エリアはころころと笑うと、夕食のパンを食べ始めた。


 ふぅ、うまいことごまかせたな。これで断食を続けられるし、あとは夜の見張りで断眠もできる。

 懸案を解決して、俺は安心してハーブティの暖かさと香りを楽しんだ。



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