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ズウナ山討伐戦

『睡眠遮断:深度2』

『摂食遮断:深度2』


 今の俺の我慢状態はこうなっている。


 ギルドで大規模討伐依頼の申し込みをした日から2日、いよいよ当日が訪れた。

 この2日間ももちろん食わず寝ずですごしていた。我慢しない期間を作ったらもったいないからな。

 そしてその2日間で、大討伐依頼の準備もしていた。


 まず山に行って月光草や陽光草を取ってきた。本当は回復ポーションの方がいいけど、高いから……効果は落ちるが草の状態で妥協するしかない。

 そして剣の手入れ。これまで実際に何かを斬ることはめったになかったからな。ちゃんとしておかないと危険だ。

 さらにロープやナイフ、細々した冒険用アイテムの確認と準備。

 この辺はいつも持ち歩いてるけど、今回やるのは危険度が高いことだからな。

 全部揃ってるな、よしっ。


「…………俺は旅行前日の子供か?」


 ウキウキで用意してるなんてなあ……まあガキの頃旅行行ったことなんてないから、俺を使ってた金持ちの家の息子の様子を見た想像だけなんだが。


 思い出すと悲しくなるから集中しよう。

 旅行じゃなくて、モンスターの討伐、命をかけた戦いなんだ。

 

「よし、行こう」


 俺はズウナ山へと出発した。




 マイリント町は東西を山に挟まれている。

 西の山は広く緩やかな山で、日中は魔物も出ず、比較的安全で穏やかな山だが、一方で東にはいくつもの山が連なり、険しいものや高い山もあり、何よりモンスターも24時間徘徊していている上に強さもかなりのもので、圧倒的に危険だ。


 今日俺が行くのはその山々の一つ、ズウナ山。

 マイリントから一番近く、山としても生息するモンスターも東の山々の中では危険度が低めだが、東斜面には強い魔物が徘徊する谷もあるため、そこには注意が必要だとされている。


 普段は東の山々の中では魔物が少ないほうなのだが、最近、魔物の数が増えているため、増えすぎる前に事前対処ということで大討伐依頼が催された。

 

 俺はごく普通の鉄の剣と革の胸当てを身に着け、荷物袋と、魔物を倒したあとの証拠兼素材を入れるための袋を担いで、集合場所のズウナ山麓へと到着した。

 

 そこにはすでに十数人の先客がいた。顔を知っている同じギルドに所属している人もいれば、知らない冒険者もいる。

 マイリントのギルドは一つではないから、別のギルドの人だろう。


 さらに待っていると、集合時刻には30人ほどの人が集まった。結構な大所帯だ。

 一応見てみるとグリムの姿はない、宣言通りどこぞのダンジョンに行ったか。


「注目!!!」


 と、一人の男が前に出て声を張り上げた。

 他の冒険者と違い、役人の制服を着ていて、胸には金色のバッジをつけている。


「よく集まった、志ある冒険者よ。依頼の概要はすでに各自理解しているだろうから繰り返すことはしない。私から言うのは、この依頼はマイリント代官からの正式な依頼ということだ。市民の命と生活を守るため、大いに討伐に励んでほしい」


 おお、大討伐依頼だと役人が顔を出してこういうセリフを言うんだな。

 俺以外の冒険者は慣れっこなのか、真面目に聞いてなさそうだが、俺にとっては初体験でこんなよくある口上も感慨深いぜ。


「期間は2日、明日の日没までだ。その間にできる限り多くの魔物を狩ること。狩った魔物のそれとわかるような一部は証拠として持ってくるように。その数と種類に応じて報酬は支払う。最低ラインの数を超えなければ固定給は支払われないので、注意するように」


 と、威厳ある様子で話していた役人は、ここで皮肉っぽく唇をめくり上げた。


「ふん、お前ら冒険者はいつも話を真面目に聞いてないやつがいるからな。一日目が終わって、すぐにギルドに素材を売りに行き、翌日の精算で証拠がなくなってる馬鹿者が。その時にごねて私の手を煩わせないでくれよ。ああ、言うまでもないがこの依頼中に起きたあらゆる負傷、事故、その他アクシデントについてマイリント市としては一切関知しないので、各々で解決するように。それでは、開始!」


 持ち手に緑色の宝石が散りばめられたステッキを振り上げると、それを合図に冒険者たちは山へだらだらと入っていった。

 思ったよりやる気がない奴らだ、せっかくの依頼だっていうのに。


 まあいいさ、それなら俺が稼ぐチャンスだ。

 初めての討伐依頼、やってやってやりまくってやるよ!


 俺は走って山の中に入っていった。

 木々が生い茂る斜面を登っていくが、まずはただの山登りだ。

 獣道を見つけ、そこを登っていけば楽に進んでいける、西の山で山には慣れっこなんだ。


 30分ほど登っていると、ふいに気配が変わった。

 空気が水飴のように粘ついている、体にまつわりつく。


「とんでもなく久しぶりだな、この感覚」


 魔物が多いダンジョンなどの中では、魔力の濃度も濃く、そこに立ち入ったものに独特の感覚を与えるのだ。

 俺が昔ダンジョンに入ってみたときにも、こういう感覚があった。


「あのときは、最初に出会ったスケルトンに瀕死の目にあわされてほうほうのていで逃げ帰った。だが今度は違う、倒してやる」


 カサ――。


 前方で、物音が奇妙なほどはっきりと響いた。

 俺は足を止め、鉄の剣を構える。

 自分でも驚くくらい、その動作は滑らかに自然に行えた。


 来たか。なんのモンスターだ。


 カサ、カサと木の葉が揺れる。

 揺らしているのは……植物の蔦。


「デビルプラントか!」


 木陰から姿を表したのは、巨大なハエトリグサに似た魔物だった。4つの長い蔦を四肢のように扱い、移動し障害物を取り除いている。


 あの蔦で移動し、見つけ出した獲物を捉え、頭口と呼ばれる巨大な二枚のトゲのついた葉で食らう。それがデビルプラントと呼ばれる食肉植物の魔物だ。


 デビルプラントも俺を捉えた。

 植物なら目も耳もないはずだが、どうやって俺のことを感知してるんだろうな、こいつは。


「考えてもしゃーないか! やってやる! うおおおおおおお!」


 蔦を振り回し襲いかかってくるデビルプラントに俺は立ち向かっていく。




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