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02.帰宅ラッシュ

「おはようございます。」

 会社に着くとすぐに挨拶しながらパソコンの電源を入れた。

 すでに何人かは早出したのだろう。

 カチャカチャとキーを打つ音が響いていた。

 ここからは一分一秒も無駄にできない時間との戦いだ。

 あや子がリュックを机の一番下の引き出しにしまうとメールを開いた。

 未読メールが300通以上ある。

 あちゃー。

 昨日以上にあるじゃない。

 なんで平社員なのにこんなに来るの?

 考えても仕方ない。

 あや子も画面を見ながらメールの返信を始めた。


 昼の時刻を知らせる案内が入るが全員、席を立つ者もなく、キーボードの音も途切れない。

 あや子も同じように自宅で作ってきたおにぎりを片手で持ちながら、インスタント味噌汁を先ほどトイレに行くときに入れてきたポットから、お湯を注いでカップに作り、時折それを飲みながら仕事を進める。

 

 がやがやとした会議の声以外は、パソコンのキーボードを打つ音が響く中、気が付いたら帰りの時刻になっていた。


 あや子は一時間半ほど残業をするとすぐに引き出しからリュックを出して、駅に向かった。

 ここから速足で駅に向かえば、快速電車に乗れる。

 慌てて駅に滑り込むと、何とか間に合った。


 電車が走り出した。


 帰宅ラッシュの電車。

 吊り革を握る手に、今日一日の疲れがずっしりとのしかかる。

 次の駅で、数十人の若い外国人が乗り込んできた。

 大学のロゴが入ったパーカーを着て、楽しそうに話している。


 【今月の奨学金、もう入った?】

 【うん、昨日振り込まれてた。学費も生活費も全部カバー。日本ってマジで優しいよな】

 【バイトしなくていいし、旅行もできるし】

 【国からの補助金でスマホ代までカバーできるんだぜ。 日本人ってほんと親切だよな。

 大学のオーナーになると俺たち一人当たりの学生に数万円の補助がでるんだってさ。

 オーナーウハウハ言ってたぜ。】

【おい。それ秘密だろ。こんなところで言うなよ。】

【大丈夫、大丈夫。こいつら外国語なんかわからないから、ばれないさ。】


 笑い声が車内に響く。

 周囲の乗客は、聞こえないふりをしてスマホに目を落としていたが、数人が眉を顰めていた。

 あや子もその一人だった。

 またか。

 国はなんで国民に還元しないで、外国ばかり優遇措置をするの。

 金を配れとは言わないから、外国に配るくらいなら減税しろよ。

 

 心の奥に、何かが刺さった。


 (私は、娘の学費を払うために、毎日働いて、節約して、悩んでる。

  この人たちは、国から援助を受けて、余裕のある生活をしてる。

  なんで……)


 吊り革を握る手に、自然と力がこもる。

 窓に映る自分の顔が、疲れとやるせなさで険しく見えた。


 そういえば、今日もらった給与明細も収入の半分は税金関係で持っていかれていた。

 同僚も同じようなことを愚痴ってたな。

 はぁー働いても働いてもわが暮らし楽にならず、どころか隣の芝生は青々だよ。

 くそっ。


 あや子がそんなことをぼんやり考えているうちに、電車が駅についたようで、アナウンスが流れた。

 いけない降りなきゃ。

 あや子は車内でふんぞり返っている学生たちの間を縫って出口へと急いだ。

「おばさん、押すなよ。」

 先ほどの学生があや子を睨んだ。

 そこに集団で立っているのが悪いんだろ。

 心の中ではそう思ったが、日本人の性だろうか。

 あや子はあやふやな笑みを浮かべて彼らの間を縫うとドアを出た。

 背後であのおばさんウザいとかなんとか文句が聞こえたが早く帰らないと娘が待っている。


 あや子は急いで改札を出ると自宅へ向かった。


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