5話 回遊の砂浜 1層
毎週月曜日の朝に1エピソードずつ更新してます。
インゴットと剣豪は、砂岩でできた白い階段を降りる。
回遊の砂浜、第1層に到着した。
左側を見ると、エメラルドグリーンの海が広がり、水平線がどこまでも続いている。
右側を見ると、ヤシの木やトロピカルな花が咲く草地が広がっていた。
そのちょうど境になっている中間部は砂浜になっている。
ザザン……ザザン……と、波が寄せては返す。
「海だー」
「開放的ですねぇ」
リゾートにでも来たような気分だ。
2人の間に、しばしのほほんとした空気が流れる。
波打ち際をヤドカリ型のモンスターがのそのそと歩いている。
パシャン! と音を立てて、海面から魚が跳ねた。
遠くから海鳥の声がする。
平和な光景だ。
グルメダンジョンに生息するモンスターは、こちらから攻撃しない限りは敵対しない、という特徴がある。
また、グルメダンジョンは広々とした1層と、ボスがいる2層のみで構成されており、探索する時間から考えても通常ダンジョンより気軽に攻略できるのだ。
ゲームで言うなら、ボーナスステージといったところだろうか。
ラン:映えじゃん海
アチャチャ:それな
「分かるー。インゴットさん、写真撮ろ写真」
「おっとっと……。構いませんよ」
剣豪はインゴットの腕を両手で掴んで海の方に引っ張る。
海を背にしてスマホで自撮りをした。
「いぇーい。パシャー」
インゴットは剣豪の自由奔放さに振り回されていたが、そう悪い気はしなかった。
「そだ。インゴットさんって毎回言うの長いしー、トトっち、って呼んでいーい?」
「良いですよ」
「やたー」
治癒ネズミ:トトっちさん…可愛い
アチャチャ:いーね
ラン:はやく戦闘しろー
コメントでも言及されたので、インゴットもそれに応じる。
そもそも今回はグルメダンジョンに生息するモンスターを倒して海産系の料理、特に寿司のドロップを狙いに来ているのだ。
「それじゃ、剣豪さん。寿司をドロップしそうな魚を倒しに行きましょうか」
「ういー。りょっかい」
砂浜を歩きながらモンスターを探していく。
波打ち際にはヤドカリやカニがよくいるが、魚はあまり見かけない。
ふと、剣豪が前方を見上げる。
「おっ、トトっちー。あれどう?」
「ふむ……」
空中を悠々と飛んでいる、羽根の生えた魚の姿があった。
スカイフィッシュ──旧時代ではUMAとして有名な空飛ぶ魚だが、ダンジョンが発生した現代ではそう珍しいモンスターでもない。
グルメダンジョンに出現するスカイフィッシュは、焼き魚の味がする手羽先をドロップするそうだ。
回遊の砂浜攻略にあたってネット掲示板でグルメダンジョンの情報を集めていたインゴットは、それを思い出していた。
「私が倒してもいいですが、剣豪さん、やれますか?」
折角なので、剣豪に話を振る。
「んー。おっけ。見てて見ててー」
剣豪は二つ返事で了承し、腰に差した刀を抜く。
鞘から抜かれた鉄の刀身は光に反射し輝いていた。
剣豪は刀の柄を両手でしっかりと握り、頭上に構える。
そしてそのまま、声を発した。
「ギャル剣流 アゲアゲの型──」
「なんて?」
見守っていたインゴットは、思わず困惑の声を出していた。
「──テンション爆上げ斬り!!!」
頭上に掲げた刀をそのまま勢いよく振り下ろす。
すると、すさまじい風圧と空を切り裂く音が駆け抜けた。
「ギャヌ!」
スカイフィッシュは素っ頓狂な断末魔を上げ、真っ二つになった。
やがてキラキラとしたエフェクトと共に消滅する。
──斬撃を、飛ばした。
剣豪の名は伊達ではない、と言わんばかりの一撃だ。
よく見るとスカイフィッシュだけでなく、その遥か上空の雲までもが真っ二つに斬られていた。
流石にインゴットも開いた口がふさがらない。
「な、ななな……なん……!?」
「おー、いい感じ。ぶい」
剣豪はインゴットの方に振り返り、のほほんとした顔でピースをしてきた。
モフモフ狂:雲ってモフモフしてるのかな
治癒ネズミ:今そこ重要です?




