第15話 ボス攻略はまた今度
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筆が乗ったら不定期に追加更新してます。
なんやかんやあって、時刻は夕方に差し掛かる頃。
昼飯を食べるくらいの時間に集合したので、およそ4、5時間くらいグルメダンジョンで活動していただろうか。
流石に疲れが生じて来たのと、目的の寿司はドロップしたので、今回はボスを攻略せずにそのまま帰ることとなった。
「んな〜……疲れてきたー」
「おや、無理は良くないですね。寿司も入手できましたし、そろそろお開きにしましょうか」
「さんせー」
ダンジョン攻略を途中で終わる場合、帰還を使うのが便利だ。
入手したアイテムや装備品を所持したまま、五体満足で入り口まで瞬間移動できる。
「「《帰還》」」
インゴットと剣豪は入口に戻り、配信の締めの挨拶をした。
「はい、というわけで、本日の配信はこの辺りで終わりにしたいと思います。剣豪さん、今日はありがとうございました」
「こちらこそー。トトっちのお陰で支出ゼロだし」
剣豪のスキルは強力だが、その分デメリットも大きい。
技を使うと武器が壊れるということは、武器の代金もそれなりにかかるということだ。
モンスターのドロップ品やダンジョン内の素材を売って稼いだとしても、その度に武器代がかさむのではジリ貧になってしまう。
そういう点を考慮すると、インゴットとのダンジョン攻略はまさに元手ゼロで気兼ね無く稼げる絶好の機会なのだ。
インゴット側としても、自分に足りない攻撃力と、配信活動の華を補ってくれる剣豪の存在はありがたかった。
「いえいえ。剣豪さんが良ければ、またダンジョン攻略配信しましょう」
「もちもちー。いつでも誘って! てかこっちから誘うわー」
「ええ。気軽にどうぞ。……それでは、皆さま。ご視聴ありがとうございました」
「ばいならー」
カメラに向かってお辞儀をするインゴットと、ふりふり手を振る剣豪。
少しして、配信を終了した。
帰る電車の方向が違ったので、現地解散となった。
「それでは、また」
「またねん」
✜________✜
「ただいま」
返事は無い。
暗く、しんと静まり返った玄関に、剣豪の声と、後ろ手に閉めた扉の音だけが響く。
ぱちん、と部屋の電気を付ける。
「やー、疲れた疲れた」
独り言は、儀式だ。
楽観的で陽気で余裕のある自分である為に、不安と弱さを白く塗りつぶす、そんな儀式。
仏壇の前に座り、手を合わせて目を閉じる。
「今日はさ、良いことあったよ。だから2人とも安心してね」
キッチンの食器棚からトレイと醤油、それから箸を取り出してテーブルに置く。
インベントリを操作し、先ほどのグルメダンジョンで入手したマグロ寿司を1人前出現させ、トレイに乗せた。
トレイを部屋の前まで運び、床に置く。
剣豪は部屋の扉をトントンと軽くノックし、話しかけた。
返事が無いと分かっていながら。
「食事、ここ置いとくね。夜月の好きなお寿司、ダンジョンで取ってきたんだ。……ちょっと早いけど、誕生日、おめでとうってことで」
返事は無い。
それでも、きっと。返事が無いだけで、聞いていてくれるのだと、自分に言い聞かせる。
「それじゃね。おやすみ」
起きている時に会うことは無いし、寝ている間に会うことも無い。
剣豪は弟に話しかける日課を終わらせると、自室に入ってベッドに横たわった。
(……誕生日プレゼントでも、ダメかー。そんな気はしてたけど、ちょっとキツいなぁ)
両親が交通事故で帰らぬ人となってから数年、弟は毎日、あの部屋の主となり、引きこもっている。
唯一残された家族だ。放って置くことなど出来ず。
あの手この手で部屋から出そうと試行錯誤していたのも最初の1年ほどだけ。
剣豪の心が、先に折れた。
疲れて回らない頭を、寝てしまう前に少しだけ動かす。
(大丈夫。あーしならやれる。インゴットさんを利用してダンジョンで荒稼ぎする──)
剣豪がウェポンチャンネルを見つけたのは偶然だった。
だが、彼女にとってそれは正しく運命。
これを逃してはならない、という藁の船だった。
剣豪にとってインゴットのスキル《鍛冶師》は、ゲームシステムを根幹から変えるチートスキルだ。
例えるなら、カードゲームで運営から禁止にされるコンボカード。
また、弾薬が少ないゾンビゲームにおいて、敵を一撃で倒せるロケットランチャーを無料で無限に使えるようになる、とでも表現すれば分かりやすいだろうか。
剣豪の目的は、ダンジョン攻略で生計を立てられるようにすることだ。
現状、両親が入っていた保険や国の補助金などで生活が成り立ってはいるが、それも無限では無い。
いつか来る終わりに備えて、自分と弟が暮らせるだけの収入源は確保したい。
勿論、一般企業への就職も視野には入れるが、高校生でいる内にダンジョン攻略で食っていけるようになれれば、それに越したことは無いだろう。
……と、考えていた所で、疲労がピークに達し、睡魔に襲われる。
まぶたが重くなっていき、うつらうつらと船を漕いだ。
剣豪はそのまま、眠気に任せて軽く仮眠を取ることにした。
悩むのも頑張るのも、また明日から。
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