表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幸福製造機

作者: 喜國 畏友
掲載日:2025/10/13

「国民の幸福度を上げることが、政府の最重要課題です」


 そう宣言した首相の笑顔は、どこか作り物のようだった。

 その翌週、全国民に一台ずつ、小さな白い装置が配布された。

 名前は――幸福製造機ハッピーメーカー


説明書には変な字体でこう書かれていた。


> スイッチを押すと、あなたの脳に幸福信号が直接送られます。

> 安全・無害・完全自動。あなたの人生を、もっとハッピーに。


 最初は誰も信用していなかった。

「政府が配るもので幸せになれるわけないだろ」

「どうせ新しい監視装置だ」


 そんな声もあった。いや、そんな声だらけだった。皆んなが不満を隠さなかった。


 だが、何故か使った人々は皆、笑顔になった。

 不思議と、文句も、不満も、涙も消えた。

 彼らは言う。

「今の生活に満足してる。何もいらない。」


 テレビも新聞も、幸福製造機のニュースでいっぱいになっていった。


「国民の幸福度、過去最高を記録!」

「SNSでは“ #しあわせって最高 ”がトレンド入り!」


 批判していたジャーナリストたちも、次々に幸福を感じはじめた。

 彼らの目の下のクマは消え、言葉は丸くなり、記事のタイトルは柔らかくなった。

「幸福製造機、使ってみた。正直、悪くない。」


---


 それから数年が経った。

 街は静かになった。誰も怒らず、泣かず、抗議もしない。

 電車では、全員が同じ無表情の笑みを浮かべて座っていた。

 事故も犯罪もなく、経済も安定し、出生率も「幸福的に」上昇した。


 だが――幸福製造機を使わない者は、いつの間にか見かけなくなっていた。


---


 ある所に独りの少年がいた。

 彼の機械は壊れていて、どんなに押しても光らなかった。

 修理を頼もうにも、もう「壊れる」という概念を知る人がいなかった。


 学校では、毎朝“幸福体操”が行われる。

「幸せですか?」

「はい、幸せです!」

 

 全員が声を揃えて笑う。少年だけが笑わない。  教師は言った。


「あなたの“幸福感”が足りませんね。反省文を書きましょう。」


 少年は家に帰って、両親に訴えた。

「僕、この機械いらないよ。気持ち悪い。」


 母親は微笑んで答えた。

「あなたはまだ子どもだから、幸福の味がわからないのよ。」


 父親は、優しく頭を撫でながら言った。

「いつかきっと、君も幸せになるさ。」


 父の手には、幸福製造機が握られていた。


---


 そしてある日、政府は新たな声明を発表した。


> 「幸福製造機を使わない者が、国民の幸福を脅かしています。」


 街角のスクリーンには、無表情で笑う人々と、独りだけ笑わない少年の写真が並んだ。

「幸福を拒む不幸な者を、国家が救済します」


 その夜、ドアが叩かれた。

 少年は静かに機械を手に取り、スイッチを押した。

 何も起きなかった。


 外からは優しい声が聞こえた。

「心配しないで。すぐに幸せになれるからね。」


---


 翌朝、街にはまた一人、笑顔の人が増えていた。

 ニュースキャスターが微笑みながら言う。

「国民全員、幸福になりました!」


 カメラの奥で、幸福製造機がゆっくりと点滅していた。

 その光は、まるで人間の心臓のように、規則正しく――冷たく、脈打っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xから来たリドラです! ひえぇ~、洗脳みたいで恐ろしいですね これからも創作活動頑張ってください!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ