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「孤児院だったんだけどさ。一枚の小さな絵を見たんだよ。ずっと小さな子供のころにね。その絵はすごく綺麗な絵で、私はいつまでも、その絵を見ていたんだ。飽きることなく、ずっと、ずっとね」とかれんは言った。
「一枚の絵」とあすみは言う。
「うん。すごく綺麗な絵だった。星の絵なんだけどね。子供のころの私は、……、うーん。もしかしたら今もかもしれないけど、その絵に救われていたんだと思う。だから、ずっとその絵を見ていた。星の絵を。それで、絵が大好きになって、自分でも描いてみたいって、思うようになって、実際に描くようになって、それで気がついたらいつのまにかに画家になってた。いつのまにか、大人になってたみたいに」とあすみを見て、かれんは言った。
あすみはそのかれんのお話を真剣な目をして聞いていた。
あすみはそのかれんを救った小さな星の絵を見てみたいと思った。
あすみはかれんの描く絵が大好きだった。
優しくて、美しくて、温かかった。
あすみがかれんと、本当にたくさんの人たちがいる大きな都会の中で、奇跡みたいにして、出会うことができたのも、あすみがかれんの絵に出会って、その心をあっという間に奪われたからだった。
あすみはかれんの絵に救われていた。(だから、小さな子供のころのかれんがその小さな星の絵に救われていたというお話が、すごくよくわかった)
「どんな人にも、その人にあった泳ぐべき海があり、飛ぶべき空がある」とかれんは言った。
「泳ぐべき海と飛ぶべき空」とあすみは言う。
「私の先生の言葉。自分によく馴染む居場所があるんだよ。世界は広いからね。世界のどこかにはそんな自分のための海や空があるんだ。そんな青い色がある。人生はそんな奇跡みたいな色を探すための旅だね」
「そんな素敵な色をかれんさんは見つけたんですね」あすみは言う。
「あすみもね」とふふっと笑って、(あすみの顔をキャンパスの中に閉じ込めるみたいにして、綺麗な長い指で、四角い形を作って、覗き込むようにして見て)かれんは言った。