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底なしの陽気

作者: 藪犬

 

 私は長く続く憂鬱を味わったことがない。嫌なことがあったとしても、その気持ちが長続きした試しが一度も無いのだ。

 確かにその時の気分では途轍もなく自己嫌悪に陥ったりするのだけれど、一日経つとそれがすっかり霧消してしまって跡形も無くなってしまう。

 私はどうもそれが不思議でたまらない。あんなに私を苦しめ腹の中にたまっていたものが、たった一日で何処に行ったのかも見当が付かなくなるのだ。

 起きてみるとフッといないものだから、何処かに隠れているんじゃ無いかと腹をさすってみたり、口を開けたり、果てにはベッドの下に落っこちていやしないかと覗きこんでみる。しかし、どこにも見つからない。


 あんなにあったものが一晩で消えるなんてことは到底あり得ない筈だから、私の体にぽっかりと穴でも開いているに違いない。

 思い立ったが吉日、私は自分の体を探索してみた。すると、思った通り穴が開いている。穴を覗き込んだが底は暗くてさっぱり見通しが聞かない。穴に石ころを落としてみたが、ちっとも音がないのだから随分深いのだろう。

 私は穴の縁に立って考え込んでみた。一体これは何の穴か。思考が頭の中を行き交い、遂に真相にたどり着いた。私は思わず穴に向かって叫んだ。

 「こいつは陽気の穴だ!」

 すると穴の底からプッと風が吹きでてからこんな声が聞こえてきた。

 「その通りだ。俺は陽気の穴だ。」

 「すると、お前があの陰気を吸っていたのか?」

 またもやプッと風が吹き声が聞こえた。

 「吸って、そして溜まっていくのだ。」

 「溜まっていく?」

 「そうだ。俺にも限度というものがある。僅かな陰気なら俺の手で消すことが出来るが、溜めすぎると詰まってしまって本体に影響が出るのだ。」

 「ははあ、成る程。そうして、心の病に繋がったりするわけだ。待てよ、しかし私はなんともないぞ。」

 すると馬鹿にしたようにプププと風を吹かし、穴は嘲りを込めて言った。

 「そりゃあお前が底なしの馬鹿で、陰気なんぞこれぽっちも溜め込んでいないからさ。」

 「なんだとこの野郎!」

 私はカッとなってその辺にあった石ころを投げ入れてやろうしたが、穴から凄い勢いの風と共にさっき落とした石ころが飛び出してきてデコに当てられたので、

 「チクショウ!覚えてやがれ!」

 と捨て台詞を吐き、スゴスゴと引き返してきた。

 

 これがつい昨日の出来事である。私は腫れたデコを往来に晒しながら恥ずかしげも無く歩いている。底なしの馬鹿だろうと病に罹るよりは随分マシだろう。



 

エッセイを書くつもりだったんですが、途中から変に曲がっちまいました。

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