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5 生きているか死んでいるか分からない

 佐伯に注文してもらった料理に囲まれた支部所内。

 そこには、もちろん俺がお願いしてもらったケーキ……丸々ホール状態のモノもあった。

「あれ。みんな甘いモノ苦手?」


 若い年頃のヤツらが集まっているところだからそこそこに甘いモノも食べるのかと思っていたんだけれど、周りの連中が先ほどから手を伸ばして口にしているのは寿司だったりピザだったりハンバーガーとかチキンとか……所謂ジャンクフード系が多かった。ハンバーガーショップからは、ポテトなども出前で注文することが出来たらしく一体いくつのジャガイモを使って作られたんだろう……と不思議に思うほどに、たくさんのポテトもテーブルに並べられていた。

 が、俺のように真っ先にケーキから手を伸ばそうとするヤツは見られなくて、もしかして甘いモノは苦手なヤツが多かったんだろうか?と思ってしまった。佐伯は、さっき一緒にアイスを食べていたし、ケーキは一切無理!っていう感じの若い子ばっかりなのかな?


「い、いやぁ……さすがに、ここまでデカいケーキを見るのは久々で……」


 どうやら俺が佐伯に頼んでしまったケーキというものは特注も特注。切り分けて食べていけば数人分なんてモノではなく、数十人分ぐらいは食べられそうなサイズだったようだ。え、そんなに?たぶん、これぐらいだったら俺一人でも食べられそうなんだけれどなぁ。


 一応、他にも手を付ける人がいるかもしれないから、ケーキ用のナイフで少しずつカットして小皿に移しながら俺は食べていくのだけれど周りからは『甘そうっすねぇ』と苦笑いまじりに呟かれるばかりだった。


「ケーキだからねぇ。でも、これちょっと甘さ控えめっぽいよ?」


 もちろんケーキだから多かれ少なかれ砂糖は使われているだろうけれど、見た目ほどのくどい甘さがあるってタイプでは無さそうだ。まあ、見た目からすると大量の砂糖が使われていて甘い!一口でギブ!って思われても不思議そうじゃない見た目をしているけれど。


「え。そうなんすか?見た目は普通のケーキ……つか、こういうの見ると誕生日ケーキとか思い出しますね」


 誕生日を祝われる声と、歳に見合った分だけ何本もの蝋燭が立てられて火が付けられた誕生日ケーキ。もちろんケーキを食べ始めることが出来るのは誕生日を迎えた当人からってのがお決まりのルール。

 あれ、でも俺っていつまで誕生日を祝われてたんだっけ?今、仮に蝋燭を灯そうと考えたとしたら……何本の蝋燭が必要になるんだろうか?


「……誕生日、ねぇ……」


「俺は気が付いたら母子家庭だったんで、誕生日って言ってもあんまりここまで立派なケーキを食った覚えはないっすね」


 ここに来て、まさかの暴露。

 佐伯って、母子家庭だったのか。


「あれ。そうだったの?」


「えぇ。むしろいつもよりも母親の帰宅が早くて、ちょい不器用ながらに作ってもらったオムライスの方が印象に残ってるって感じっす」


「佐伯さんにオムライス!?なんか、可愛いっすね!」


 若手の一人が佐伯に向かってオムライスに喜んでいる様子を想像したのかもしれないけれど、それが意外だったのかゲラゲラと笑っていた。


「可愛い言うなっつの!」


 母子家庭ということも今初めて聞いた。それに、佐伯なりの誕生日の記憶というものも今でもしっかり覚えているところはあるらしい。母親に作ってもらったオムライスか……それ、きっと母親なりに愛情を詰め込んだ一品だったんだろうねぇ。

 俺は……気が付いたときには母親らしい人間に会った記憶は無い、と思う。いや、俺という存在がいるのだから母親そのものはいるとは思うんだけれど、何かをしてもらっただとか、母親の温もりがどうとかって聞かれると何も分からない。もしかして、もう死んでいたりするんだろうか?


「久保田さんは?誕生日関連のエピソードって何か無いんすか?」


「う~ん……特には無い、かな」


「……何も?」


「んー。物心付く頃には、おじさんの所で暮らしはじめたからねぇ。そもそも母親の顔すら分かんないかな、俺は」


 小学生の頃だったろうか、いきなり引き取りに来たのは一応親戚にあたる身内の一人である『おじ』だった。それまで誰に育てられていたんだったっけ?父親?いや、思い出せない。母親?……いや、それらしい人物はいなかった、と思う。


「なーんて、このご時世だし、人それぞれでしょ。ほら、そんな顔しないしない……甘いモノでも食べて景気良い顔でもしなさいよ」


 ちょっとばかしマナーは悪いとは思いつつも、今まで俺が食していたフォークで適当に切り取ったケーキの一部を取ると何やら気まずそうに顔を背けている佐伯に声を掛ければ口元にべちゃ、とケーキを付けてあげた。


「!?」


「ぶ、ははは!佐伯さん!すげぇ、顔!!ははは!」


「ほらほら、ダメでしょ?ちゃーんと口開けて食べないと」


「!甘っ!!めちゃくちゃ甘いじゃないっすか!」


 口周りがすっかりケーキの生クリームだらけになってしまったらしい佐伯の顔を見て、一人が噴き出して笑いはじめるとそれがどんどん感染していったかのように笑いが起こっていった。こういうところは、歳相応っていうか……まだまだ若いなぁ、と面白おかしく眺めていた。

 もちろん俺的には甘さ控えめ、とは言ったけれど個人の甘さバロメーターまでは分からないものだから個人差があるのかもね。口に付いた生クリームを舐めていく佐伯はめちゃくちゃ甘い!と訴えてきている。


「……久保田さんには、親がいないんですか?」


 不意に隣に立った……沖永おきながという、周りよりも比較的しっかりとスーツを着込み、眼鏡を掛けた若者が話し掛けてきたものだから、素直に『うん』と言いながら頷いた。


「んー、生きているか死んでいるかは分からないんだよね。俺にも」


「……ウチも、似たようなモンです。俺は施設育ちなんで……あの、二人……今、佐伯さんに絡んでいる二人も同じ施設の出なんですよ」


 沖永は、ちょうど今佐伯に絡んでバカ騒ぎをしている長めの金髪を結い上げている斎藤さいとうと黒髪の短髪で顔のあちこちに絆創膏を貼り付けている原田はらだを見遣りながら説明してくれた。きっと俺があれこれ語っていたから自分のことも説明しておこうと思われたのかもしれない。俺としては全然その気は無かったんだけれど、これは……もしかして気を遣わせちゃったかな。


「そうなの?」


「一応、施設の人たちには感謝してますけれど……たまに、チビたちが寝ている間に挨拶とか気持ち程度ですけれど金とか手紙とかを届けるぐらいで……」


 あぁ……『違う』と思った。少なくとも俺とは。

 さすがに堂々と顔を出すことなんて出来ないだろう。施設というからには未成年も大勢いるだろうしね。でも、きちんと時間を考えてあれこれしているのは正直、偉いと思ったし、良いことだとも思えた。


「良かったね」


「は?」


 ぼそっと口から出てしまった俺の呟きに、たぶん意味が分からなかったんだろう沖永は怪訝そうに眉を顰めてしまったらしい。


「生みの親っていう存在じゃなくても、施設の人に感謝の心は抱いているってことでしょ?それに、なんだかんだ言ってもいろいろ恩を返してるじゃない。自分はここまで大きくなりましたよーって成長を伝えられるでしょ?」


 恩を感じられる相手がいること、恩を返せる場所がきちんと存在していること、っていうのは俺からすれば財産とも思える。俺には、あいにくそういった存在も場所も心当たりが無いからなぁ。まあ、なんだかんだ思春期の時にバカやっていたときにはお世話になってしまった『おじ』の存在には助けられているし、たまーに会ったり、連絡をしたりするとゲラゲラと笑って話を聞いてくれる存在にはなってくれているから俺にとっては『おじ』がその大切な存在なのかなぁ。

 特注のケーキってどんなんだろう?(汗)結局のところ、久保田一人だけで食べきっちゃうんだろうなあ(苦笑)……じゅるり。


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