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3 寒い時期に食べるアイスも乙なモノ

 ただ麻雀を楽しんでいたときにも、人を殺した後でもタバコの味はそう変わらなかった。

 まあ、そんなモンか。

「あ。ねぇ、ちょっとコンビニ寄って行こうか」


 若手の集合場所、もとい支部所に向かう途中、俺の視界に入って来たのは全国あちこちに店舗を築かれている某コンビニ。

 さすがに無言で一人で向かうわけにもいかないだろうから佐伯には一声掛けていくものの佐伯は俺がタバコを買いに行くんだと思ったらしくメーカーを教えてもらえば俺が買って来ます!と、一気に懐かれた感じがする大型犬のように見えてしまったが、残念ながら今のところタバコの補充は……いいかな。

 それよりも俺が今欲しているモノは別にある。


「へ?あー、タバコですか?だったら俺が……」


「んー、残念ながらタバコじゃないんだよね」


 大の男が二人して昼間からコンビニに足を運ぶ。一人……佐伯はどう見たって危ない方面の人っぽく見えるだろうし……なら、俺は?店員さんからすれば俺はどのように見えているんだろう?……佐伯の飼い主、だろうか……もちろん冗談だよ。


「……お、あったあった」


 俺は他のコーナーには目もくれずに、真っすぐに冷凍コーナーへ向かった。

 そこは、冷凍食品とはまた別の冷凍コーナーで……。

 

「って、この寒くなってきた時期にアイスっすか?」


 佐伯も俺について来て何を買うんだ?と横から覗き込んでくれば、そこにはコンビニメーカーのアイスが並んでいる場所だったからアイス!?とちょっとびっくり、そして意外だとばかりに驚いているようだった。

 タバコを吸っているからアイスとかの嗜好品にはあまり手を出さないと思われたんだろうか。いやいや、こう見えて、俺ってば甘いモノとかも結構好きなんだよ。だから、ちょっと出掛けた先でコンビニを見つけてしまうとどうしても足を運んでしまうし、一番真っ先に足を運んでしまうのはアイスコーナーだったりしている。


「そ。意外とコンビニのアイスって美味しいからさ。あんまりアイスとかは食べない?」


 まあ、昨今の物価の値上がりにコンビニ商品も倣ってどうしたってコンビニに並んでいるアイスは高く感じる。でも、その値段で損をした気分にはならないほどにそこそこに美味しかったりするものだから季節とかは関係無くアイスは食べたくなるのだ。


「いや~、夏場とかはかなり食いますけど、寒くなってくるとあんまりっすね……」


 んー、季節の問題じゃなくてアイスそのものを食べるかどうかを知りたかったんだけれど……まあ、聞く限りだと甘いモノは嫌いじゃなさそう?だったら、俺と一緒にアイスを食べてもらおうかな。


「なら、これも良い人生経験ってことで」 


 さすがに味の好みまでは分からなかったので、俺用にはチョコミント、そして佐伯用にはごくごく普通のバニラのアイスを手にするとささっと会計を済ませてコンビニの外に出て行くものだから佐伯はあたふたしていたらしいがわざわざ後ろを見なくてもよく分かる。お前、そんなふうに生きているの?なんだか見ていて飽きないね。


「はい」


「え、ええ!?お、俺にっすか?」


「そそ。寒い時期のアイスもなかなか乙なモノよ~」


 スプーンだとかいろいろ必要になるアイスは面倒くさかったので、外装のカップさえ取り外してしまえば片手でも食べられるタイプのアイス。

 確かに外は寒くなってきているけれど、意外とアイスの需要って冬でも高いんだよ。もちろん俺みたいに、外で寒い寒い言いながら食べている人間っていうのは珍しいかもしれないけれど、家の中を暖かくしながら冷たいアイスを食べる、炬燵に入りながらアイスを食べる、っていう人も多いじゃない。それに夏場だとすぐ溶けちゃうでしょ?寒くなってくる時期だとそれが無いから慌てて食べる必要も無い。だから余計にじっくりとアイスを味わって食べられるような気がするのは俺だけだろうか。


 バニラのアイスを佐伯に渡すと、躊躇いながらも受け取って、口にしていく。やっぱり冷たい風を感じる中でアイスを食べるっていうのは、なかなかに体験したことが無かったようで複雑そうに体も口も冷たい冷たい!って言いながら、それでもちゃっかりアイスは食べていくのねー……。


「つめたっ!寒っ!!」


「……はは、なんて言うか賑やかだねぇ」


 初めて顔を合わせたときには、第一印象最悪に思われてる?俺?って考えていたのだけれど、それがそれがこうして話をしていけば案外面白いヤツだということがよく分かる。素直なのかな?心のずっとずっと奥の根っこの部分……こんな世界に入ってはいるけれど、根っこの部分はめちゃくちゃ純粋で、まだまだ少年っぽさも残っているヤツなのかもしれない。


「いやいや、俺たちそこそこ良い歳っすよね!?その二人が公園のブランコに座りながら寒い時期にアイス食うって……寒々しくないっすか!?」


「!はは、そこまでは考えてなかった。うんうん、でもたまには良いんじゃない?寒い中に食べるアイスもなかなか美味しいでしょ?」


「ま、まあ……美味いっすけれど……」


 あまり人通りが少ないとは言え、歩きながら食べるのもどうかと思ってふらりと立ち寄ったのは近所の公園だった。ベンチで仲良く……とも考えたのだけれど、それはちょっと……と何故か佐伯の方から遠慮されてしまって仕方なく二人仲良くブランコに座りながらアイスを味わい中である。


「つか、アイスとか……甘いモノ、好きなんすね?」


「そ。意外?」


「ちょっと。なんつーか、さっきまでは……ってあんま蒸し返さない方が良いっすね……」


 佐伯が何かを言いかけたものだから、せっかくなら……と続きが聞きたいとお願いしてみる。

 佐伯の目には、俺という人間はどのように映っているのか、それが知りたかったからだ。


「いやいや、言ってみてよ。俺いろいろと自分のことも分かっていないような人間だからさー……人からどう思われているのか、どう見られているのかって結構気にするんだよね」


「分かって、いない?」


「そそ。もちろん、好きなモノはアレだとかコレだとかってことは言えるんだけれどさ……自分の性格は?とかって聞かれるとよく分からなくて」


 好きなモノ。取り敢えず、タバコ。そして駆け引きが出来るモノ。その代表的なモノが麻雀。そして甘いモノ。でも、逆にめちゃくちゃ辛いモノも好きだったりする。でも、それはあくまでも好きな味だとか、好きな趣味だとかって意味。

 なら、俺っていう人間はどんな人間なんだろうか?


「……さっき……」


「ん?」


「事務所で、躊躇いも無く銃を手にした姿を見たときには本当に同じ人間なのかなって思ったんすよ。躊躇いも無く……人、殺したし」


 佐伯も別に目の前で人が死ぬのは初めてじゃないらしく、そう気分的にはあたふたしているわけじゃなさそうだけれど、俺のようにここまで躊躇いも無く人を殺すっていう光景はなかなかに見られないことだったらしくて不思議に感じているようだった。


「……そーだねぇ」


「でも、こうやってアイス食ってる姿とか見ちゃうと本当に同じ人間なのかな?って不思議には思いますね。……まあ、まだ出会ったばっかっすけれど」


 『不思議』。そう言われることは多いかもしれない。

 何を考えているのか分からない、とか。いきなり突拍子も無いことを始めていくこともあったりするから周りからは不思議がられていたこともあったっけ。

 今回のアイスのように。


「……確かに、発砲したときは手がビリビリしたなあ……」


「……そこっすか」


「うん、そこそこ」


 人をどうこうしたということよりも、一瞬耳がキーンとなったこと、手が痺れる感覚があったことを思い出したように口に出していけば、佐伯からは突っ込まれてしまった。たぶん、こういうところが『不思議』に思われているのかもしれない。


「でもさー、いきなり若手をまとめろって言われても俺、なんにも知らないよ?そんな人間に任せても大丈夫なわけ?」


「そこは、一応俺もいるんで、フォローしていきますよ」


「あー、佐伯の方が先輩なんだっけ。んじゃ、よろしくお願いしますねー、先輩?」


「!う、うっす!」


 いきなりポカした人間を殺めることになって。そして次のまとめ役として俺が選ばれて……俺ってそういう、まとめ役だとかリーダーとかは面倒くさいから避けてきたんだけれどなあ。まあ、佐伯もいるっぽいから何かあれば遠慮せずに頼ればいいか。

 冷たい風が吹くなか、一緒に食べるアイス。たぶん、アイスは久保田なりの挨拶だったのかも?『これからよろしくお願いします』的な?……いや、もしかしたら何も考えてなくて、ただ食べたかっただけなのかもしれないけれど……(汗)


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