ご主人さまの起こし方
ぼくはペルシャ猫のオス、?歳。ブルーの毛並みのふわふわの子猫。
生まれてしばらくは家族と暮らしていましたが、ご主人さまとなる方に見初められ? 新しいおうちにやってきました。
新しいおうちは、広いようで狭いです。
明るいようで、ちょっと暗い。
陰気なようで普通……そんな家。
ご主人さまは、人間の男です。家族と暮らしているのか、母親らしき人がいました。そして時々彼女や親戚の人間がやってきます。
ぼくは小さい頃に引き取られ、この家で暮らすことになりました。
◇◇◇◇◇◇
新しいおうちにやってきてから数ヶ月が経ち、ぼくの体は、すっかり大きくなりました。ぱっと見は、大人の猫と変わらないくらいです。
ぼくのご主人さまは、とても寝起きが悪いです。
仕事が辛いのか、夜遅くに帰ってきては酒を飲み、疲れが取れていないのか、朝はなかなか起きられなくて、毎日母親に叩き起こされています。
そんな光景を、幼い頃から見てきたぼくは、ある時ひらめきました。
よし! ぼくもお手伝いしよう!
我ながら名案です。
善は急げと、翌日から行動を開始することにしました。
◇◇◇◇◇◇
朝になりました。ご主人さまは、まだ夢の中です。
だらしのない格好で、ぐーすか寝ています。
時刻は6時。そろそろ起床時間です。
いつものように、足音を立てずに部屋に侵入したぼくは、ご主人さまに近づきました。
そしてーーー。
ガブッ!!!
尖った歯で、彼の鼻を、思いっきり噛みました。
激痛で飛び起きるご主人さま。
ぼくは驚いて飛び退き、一目散に安全圏へ逃げます。
あー、びっくりした。
そんなこんなで始まった朝の日課。
とても驚いたけど、効果てきめんだったみたい。
ぼくは喜びに満ち溢れました。
◇◇◇◇◇◇
それから1ヶ月経ち、朝のルーティンも恒例となった頃、ぼくは堪忍袋の緒が切れたご主人さまにより、1Fベランダから投げ飛ばされました。
なんで?! ぼくは良かれと思って、ご主人さまの役に立つべく毎朝起こしに行ってたのに、こんなのひどいよーー!! わ〜んっっ!!!
にゃー! にゃうー! にゃお〜ん! にゃおお〜〜ん!!!
ぼくはショックでたくさん泣きました。
どうしてわかってくれないの?! なんで?!
しばらくすると、母親に色々言われたのか、ぶすっとした表情のご主人さまが、ぼくを迎えにやってきました。
「もうすんなよ」
そう言って、ぼくを抱きかかえると、自宅に戻りました。
◇◇◇◇◇◇
人間感覚で3日経ちました。ぼくの中では、隨分時が経ったような感じがします。
ーーーもういいよね?
ご主人さまも忘れたかのような態度を取ってるし。
ぼくは再び行動を開始しました。
ぴゅ〜〜〜〜ん!!!
ぼくは再びご主人さまによって1Fベランダから投げ飛ばされました。
◇◇◇◇◇◇
あの日、2度目のお仕置きを食らったぼくは悟り、彼らの前から姿を消すことにしました。
ひらひらと、ぼくのそばを蝶々が飛びます。
さわさわと、草木が揺れる。
風の吹くまま気の向くまま、ぼくは駆け出した。
END
お読みいただきありがとうございます。
このお話は、親戚の家で実際に起こった内容を、猫視点で書いたものです。
窒息系の話はよく聞きますが、噛みつき系といったいどちらがマシなのでしょうね。