第八話
とうとう人間界の村サンターにまでやってきた。ここが事実上の吸血族との国境となる村である。
警戒されぬよう、ここからは穴の開いた衣服や鎧は厳禁である。ただし、どうしてもという時だけ一着のみ持ち込む。
「こんなの着てたら『私は吸血鬼です』って言ってるようなもんだし」
(そうだけどさぁ、カラ)
「せっかくもらった鎧が……」
「さ、さっそくアジトへ」
そこは『サングイス製薬株式会社サンター営業所』とある。
「いらっしゃいませ」
「御一行様ですね。鎧を預かります。地下の預り所でよろしいですね」
二名の人間……おっと吸血鬼が居た。
「いつもすまないね」
「いいえ、営業がんばってください」
「いい? ここからはいざ吸血鬼の姿になったら衣服台無しだからね。そういう意味でも本性を現すときは慎重にね。それとこれを」
カラから渡されたのは錠剤シートだった。
「これは?」
「睡眠薬よ。錠剤を押せば錠剤が出て来る。眠らせて血を頂くの……注射針でね。もっとも睡眠魔法をかけてさらに念のためにね。使用済み注射針はこの箱に入れて捨てリサイクルよ。でも完全にリサイクルなんて出来ない。ゆえに吸血族にとって鉱山は貴重なのよ。注射針がないということはそれすなわち吸血族にとって人間の血の供給が止まるって意味なの。針の使い回しは感染症が蔓延するから厳禁よ。人間を滅ぼしかねない」
(そっか。貴重な金属を使ってるのは鎧だけじゃないのか)
カラの顔つきは獲物を狙うそれだ。
「今日はこの村の宿屋に泊って」