第六話
「魔壁呪を唱えてどんな強力な呪文でも跳ね返す」
また冗談を。そんなこと出来るの?
「出来るの?」
「出来る。ユーリルほどの能力なら。そして隙を見て妖魔族の血を飲む」
(やっぱ吸血鬼って怖いわ。自分で言うのもなんだけど)
「でもそれは……」
「そう、自分も妖魔化してしまうかも。あるいは血液に毒があるかも。そもそも半吸血族と結婚した奥さんの話、妖精族の村で聴いたわ。妖魔の血を飲んでかなり様相が変わったって」
「そんなギャンブルはできない」
「そう……だよね」
「でも『魔壁呪』は覚えるぞ」
やけくそだ。
「それと魔素の件は大丈夫だったか?」
「大丈夫だったわ。ひびが奥にまで達してなかった」
「でも、もう魔素を跳ね返す鎧は私の分を含めてもう無いわ」
茶会は重苦しい雰囲気となった。
「ねえ、ゴーレムの中に吸血鬼って格納できるのかな」
「えっ?」
「だってあくまでゴーレムを動かす核さえ守れればいいんでしょ? だったらゴーレムの中に格納して魔素から守る鎧の内側に居れば……」
「サラちゃん、ぶっとんだ発想するね」
カラは苦笑いしてた。
「ごめんなさい……」
「それと思ったんだけど。妖精族の血を飲むことを許諾できないのかな」
「「えええっ!」」
「だって、妖魔族は妖精族出自でしょ? だったら妖精族の血を飲めば魔素中毒もどうにかなるんじゃないかな? だって妖魔族だけ魔素の影響がないってなんかおかしいよ」
「そもそも飲んでいいものか分からないよ」
カラが突っ込む。
「でも分析する価値はありそう」
やっぱそうなるのか。血に飢えてるんだな、カラも。
「帰りは魔法陣を起動できないから一旦王城に帰るんだよ。この長旅の間にまた中継地点が攻撃されたら……」
「カラの言うとおりだ。ここは離れられない。どうしたらいいんだ……」
ユーリルはここを攻撃されたことの方が怖かった。
「分からないわ」
「一応聞くけど吸血鬼が吸血鬼や半吸血鬼の血を飲んじゃダメなんだよね」
「サラちゃん、それは禁忌よ。突然変異起こして異形の怪物になる可能性があるわ」
「三人はここにいらしたんでやんすか」
海魔族の船長がやって来た。
「使い捨てにならない……洗えば何度も繰り替えして使えるウオッシャブル反魔素物質が海底で見つかったでごんす」
「「「えっ?」」」
「それでも貴重な水を一杯使いますが」
「「「それは、凄い!!」」」
ユーリルらは思わず立ち上がった。
「でも火は? 高熱の火はどうするの? 鎧作るのには火が必要よ!」
サラが声を荒げる。
「心配ないでごんす」
船長がきっぱりと言った。
「燃料も海底から出たんんでごんす」
この声に三人は思わず歓喜の声を上げた。
(神様って居るのかな)
ユーリルは思わず空を見上げた。
宿屋の横にあるテラスの空は、青かった。




