第六話
ユーリルは二度目の病院行であった。
しかも今度は敗北であった。
手も足も出なかった。
「ユーリルさんのためにこんなに血液用意するの大変だったの」という看護師の声を聴いて申し訳なかった。なんと闇賭博で財産を失った貧困街に住む人間をこっそり殺してその分をユーリルに充てたというのだ。しかもちゃんとユーリルの血液型にあった血だというのだ。恐るべし、吸血族。やっぱり人間の王が吸血族の王を討伐したがる理由がよくわかる。そして命の危険を冒してまでユーリルという存在が大事だという事も分かった。だからこその石棺儀式だということも。あの石棺儀式の日も近い。
一週間の後に退院し謁見する。本当に吸血族の回復力には驚かされる。
ユーリルは謁見でいきなり王から残酷な言葉を聞いた。
「勇者よ……負けてしまうと情けない」
なにも言い返せない。ユーリルは跪き頭を垂れる。
「ところで言いたいことがあるのではないのかな?」
「はい」
「申してみよ」
「吸血族は、ほかの魔族もマーズランド、つまり火星から来たと」
「そうだ」
「しかし疑問があります」
魔王を見上げるユーリル。
「吸血族はどうやってマーズランドに人をさらっていたのですか?」
その言葉を聞くと……己の首に牙を立てたときの……三日月の笑みを浮かべる魔王がそこには居た。あの時の顔そのままである。
「君は鋭い。答えを教えよう。吸血族とは元人間なのだ」
(!?)
「大魔導士サグリッパ。彼が吸血鬼の祖だ。彼はいかしにして不老長寿になるかを考えそして禁忌に手を出した。それは魔族の血を飲むことだった。そうしていくうちに蝙蝠の翼が生じ牙が生えた。蝙蝠の翼は竜族、牙は獣族の血肉の影響と言われてる。そして臓器移植で不老長寿を目指したのだが……かなわず結局人間の血を求める魔族になった」
笑みが消えた。
「そしてサグリッパに討伐命令を下されたときマーズランドに転移させた人間の魔術師が居たのだ。サグリッパの弟子だと聞く」
魔族になった、という事!?
「人間界に居られなくなったサグリッパはマーズランドで医薬品などの研究を行い、そして莫大な成果を上げた。不老長寿の夢はかなわなかったがこの時『医学』と『薬学』を手にした。そしてサグリッパの弟子を通じて人をさらっては人間を吸血鬼にしたり、人間牧場を作った。この時、サグリッパの功績が認められ新しい魔族『吸血族』が認められた。つまり我々の故郷はむしろ『ここ』なのだ」
だから普段は人間の姿のままなのか!?
「大魔王との戦いを聴いたかね」
「はい」
「ここでも妖魔族は人間の国を滅ぼしている。はるか南方の大陸を一つ、砂漠の王国を一つ滅ぼしている」
(行ったことない)
「そもそもユーリルは自分が住む王国と吸血族とそのの近隣の国しか知らないのではないか」
(顔に出たか?)
「いい機会だ。旅してみるとよい。なぜあれほどの強力な妖魔族が今はまだ世界制覇に再度乗り出さないのかよくわかるというもの。もちろん、滅びた人間の大陸に我々が移住することも可能。妖魔族がいかに闇で蠢き、暗躍してたのかが分かる」
(そうだ。なぜ世界制覇しないのだ?)
「ユーリルよ、そなたが思ってる国際会議も開くときが来た」
「耳に入れていたのですね」
「カラから聞いた」
「素晴らしい提案だ。しかし、それは妖魔族の脅威に晒される時か、妖魔族の脅威が去った後だ」
妖魔族との戦いが終わったら世界は変わる。
「行け、南の大陸クレシェンテへ」